The Angel Cradle.
飛び立つこともままならない。 座り込むことすら許されない。 僕らはいつも、不安定な足場の上に。
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「剛!行くぞ~!!」
「…わーってるよ」
「ちょっと、二日酔いした坂本くんみたいな顔すんなよぉ~」
「健ちゃんったら毒舌は兄貴譲りなんだから…」
ピチピチ高校生コンビの会話にほろりと涙しつつ、快彦はそろそろ准一を起こすべく坂本家の二階へと続く階段を登った。
もはや隣とは10年以上の付き合いである。
勝手知ったる我が家とばかりにその足取りは軽やかだ。
「じゃあ行ってくるからヨシ兄~!!」
「お~しっかり勉強してこいよぉ~」
「分かってるっつーの!行ってきまーす!!」
「…行ってきます」
快彦が二階の吹き抜けから下を見下ろして、健は一階から二階の吹き抜けを見上げて、そんな会話を交わす。
ひらひらと快彦が手を振るのを見てから健と剛は玄関を出て行った。
…なんだか剛が健に引きずられているように見えたのは快彦の気のせいではないだろう。
しかし快彦はそれもいつものことと、改めて二階の准一の部屋へと向かった。
「じゅーんー朝だぞ~」
そう言いながら部屋の扉を開ければ、ベッドに腰掛けてお着替え中の准一がそこにいた。
「よしにいちゃ。おはよぉ」
「はいおはよ~♪准はちゃんと一人で起きてお支度もして偉いなぁ~」
誰かさんとは大違い、と快彦が笑えば准一がえっへんと胸を張る。
「じゅんはええこやからぜんぶじぶんでできんねん!」
「准は偉いな~でも一個だけ惜しかったな~」
「いっこ?」
「ボタンがちょーっと間違ってるな~」
「う?あ~!」
准一は自分が着ている幼稚園の制服のシャツのボタンが互い違いになっているのに気づいて慌てそれを外し始める。
が、どうにもその作業はゆっくりで、このままでは朝食の時間が無くなってしまうと快彦はそれをやってやることにした。
「准~ご飯の時間無くなっちゃうからヨシ兄ちゃんがやってやるな」
「む。おん」
「よーし、いっそげ急げ~坂本くんのご飯が准を待ってるぞ~♪」
「まぁくんのごはん~♪じゅんのごはん~♪」
快彦が妙な歌を歌い出せば、准一も楽しそうにデタラメな歌を歌い出す。
もともと人好きのする顔をした快彦は子供に好かれるたちで、あまり人懐っこい方ではない准一も出会って一日ですっかりこの細目のお兄さんに馴染んでいた。
今ではもう互いに家族も同然の扱いである。
「ほい、完成☆」
「ありがとぉ、ヨシにいちゃ」
「どういたしまして」
最後に幼稚園生ならではの紺の短パンにシャツを入れて、サスペンダーで短パンを止める。
帽子は手に持ったまま、快彦は准一を片腕で抱き上げた。
「よーし准、お待ちかねのご飯ターイム!!」
「ごはんたいむー!!」
**********
なんか中途半端だけどここまでしか出来てなかったので無理矢理収納。(笑)
「…わーってるよ」
「ちょっと、二日酔いした坂本くんみたいな顔すんなよぉ~」
「健ちゃんったら毒舌は兄貴譲りなんだから…」
ピチピチ高校生コンビの会話にほろりと涙しつつ、快彦はそろそろ准一を起こすべく坂本家の二階へと続く階段を登った。
もはや隣とは10年以上の付き合いである。
勝手知ったる我が家とばかりにその足取りは軽やかだ。
「じゃあ行ってくるからヨシ兄~!!」
「お~しっかり勉強してこいよぉ~」
「分かってるっつーの!行ってきまーす!!」
「…行ってきます」
快彦が二階の吹き抜けから下を見下ろして、健は一階から二階の吹き抜けを見上げて、そんな会話を交わす。
ひらひらと快彦が手を振るのを見てから健と剛は玄関を出て行った。
…なんだか剛が健に引きずられているように見えたのは快彦の気のせいではないだろう。
しかし快彦はそれもいつものことと、改めて二階の准一の部屋へと向かった。
「じゅーんー朝だぞ~」
そう言いながら部屋の扉を開ければ、ベッドに腰掛けてお着替え中の准一がそこにいた。
「よしにいちゃ。おはよぉ」
「はいおはよ~♪准はちゃんと一人で起きてお支度もして偉いなぁ~」
誰かさんとは大違い、と快彦が笑えば准一がえっへんと胸を張る。
「じゅんはええこやからぜんぶじぶんでできんねん!」
「准は偉いな~でも一個だけ惜しかったな~」
「いっこ?」
「ボタンがちょーっと間違ってるな~」
「う?あ~!」
准一は自分が着ている幼稚園の制服のシャツのボタンが互い違いになっているのに気づいて慌てそれを外し始める。
が、どうにもその作業はゆっくりで、このままでは朝食の時間が無くなってしまうと快彦はそれをやってやることにした。
「准~ご飯の時間無くなっちゃうからヨシ兄ちゃんがやってやるな」
「む。おん」
「よーし、いっそげ急げ~坂本くんのご飯が准を待ってるぞ~♪」
「まぁくんのごはん~♪じゅんのごはん~♪」
快彦が妙な歌を歌い出せば、准一も楽しそうにデタラメな歌を歌い出す。
もともと人好きのする顔をした快彦は子供に好かれるたちで、あまり人懐っこい方ではない准一も出会って一日ですっかりこの細目のお兄さんに馴染んでいた。
今ではもう互いに家族も同然の扱いである。
「ほい、完成☆」
「ありがとぉ、ヨシにいちゃ」
「どういたしまして」
最後に幼稚園生ならではの紺の短パンにシャツを入れて、サスペンダーで短パンを止める。
帽子は手に持ったまま、快彦は准一を片腕で抱き上げた。
「よーし准、お待ちかねのご飯ターイム!!」
「ごはんたいむー!!」
**********
なんか中途半端だけどここまでしか出来てなかったので無理矢理収納。(笑)
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「健、後は任せたぞ」
「おっけー」
「じゃあ行こうか、坂本くん。電車間に合わなくなるよ」
「おう」
いってらっしゃいと手を振るブレザー姿(高校の制服である)の健に手を振って、昌行と博は駅に向かって歩き出す。
後は任せた、とはもちろん毎度の如く朝食を食べながら眠りこけると言うある意味かなり器用なことをしている剛のことである。
さすがの剛も健のハイトーンボイスには敵わないらしく、毎朝不機嫌さを露にしながらもその声でばっちり目を覚まし、学校や朝練に遅刻せずに済んでいるので文句も言えずにいる。
いっそのこと毎朝健に起してもらおうかとすら思った昌行だったが、さすがに毎朝あの大音量のハイトーンボイスを聞くのは自分的にも厳しいのでそれは思いとどまった。
まぁ実質現在も毎朝聞いているようなものではあるのだが。
「月曜の朝から不景気な顔だね、坂本くん」
「あ?」
「眉間にしわ、寄ってる」
延びてきた博の人差し指がうにっと昌行の眉間のしわを伸ばす。
するとさらにしわが増えたので博はははっと笑った。
「お前なぁー」
「はは。そんな顔してると幸せが寄り付かなくなるよ?」
「ほっとけ。憂鬱な月曜だよ、ったく」
「あらら、へそ曲げちゃって」
「うっせ。あー会社休みてぇ・・・」
「坂本くん、子供じゃないんだからさ」
微笑みを苦笑に変えて博がそう言えば、分かってるよと不機嫌な声が返ってくる。
これはいよいよもってご機嫌斜めのようだ。
「まぁ月曜が憂鬱だって言うのは分かるけどね」
「お前は学生時代からいっつも涼しい顔でそういう事言うからな」
いまいち信用ならない、と昌行が訝しげに言えば博は苦笑して酷いなぁと返す。
「坂本くんがそうへたれてるから俺がしっかりしたんじゃない」
「・・・お前さりげなく毒吐くなよ」
「え?」
なんのこと?とにっこり微笑むその笑みは黒いオーラに満ちている。
流石の昌行も学生時代からこの笑みにはどうしても逆らえなかった。
なので、
「…なんでもないです」
などとつい閉口してしまうのだ。
それを満足げに聞いてから博は自身の腕時計を見た。
「…っと、坂本くん、走らないとまずいかもよ」
「あ?…げ。しょうがねぇな…走るぞ長野!」
「合点承知!!」
自らも腕の時計で時間を確認し、博の答えを待ってから走り出す。
どうやら今日も慌ただしい一日になりそうだ。
「おっけー」
「じゃあ行こうか、坂本くん。電車間に合わなくなるよ」
「おう」
いってらっしゃいと手を振るブレザー姿(高校の制服である)の健に手を振って、昌行と博は駅に向かって歩き出す。
後は任せた、とはもちろん毎度の如く朝食を食べながら眠りこけると言うある意味かなり器用なことをしている剛のことである。
さすがの剛も健のハイトーンボイスには敵わないらしく、毎朝不機嫌さを露にしながらもその声でばっちり目を覚まし、学校や朝練に遅刻せずに済んでいるので文句も言えずにいる。
いっそのこと毎朝健に起してもらおうかとすら思った昌行だったが、さすがに毎朝あの大音量のハイトーンボイスを聞くのは自分的にも厳しいのでそれは思いとどまった。
まぁ実質現在も毎朝聞いているようなものではあるのだが。
「月曜の朝から不景気な顔だね、坂本くん」
「あ?」
「眉間にしわ、寄ってる」
延びてきた博の人差し指がうにっと昌行の眉間のしわを伸ばす。
するとさらにしわが増えたので博はははっと笑った。
「お前なぁー」
「はは。そんな顔してると幸せが寄り付かなくなるよ?」
「ほっとけ。憂鬱な月曜だよ、ったく」
「あらら、へそ曲げちゃって」
「うっせ。あー会社休みてぇ・・・」
「坂本くん、子供じゃないんだからさ」
微笑みを苦笑に変えて博がそう言えば、分かってるよと不機嫌な声が返ってくる。
これはいよいよもってご機嫌斜めのようだ。
「まぁ月曜が憂鬱だって言うのは分かるけどね」
「お前は学生時代からいっつも涼しい顔でそういう事言うからな」
いまいち信用ならない、と昌行が訝しげに言えば博は苦笑して酷いなぁと返す。
「坂本くんがそうへたれてるから俺がしっかりしたんじゃない」
「・・・お前さりげなく毒吐くなよ」
「え?」
なんのこと?とにっこり微笑むその笑みは黒いオーラに満ちている。
流石の昌行も学生時代からこの笑みにはどうしても逆らえなかった。
なので、
「…なんでもないです」
などとつい閉口してしまうのだ。
それを満足げに聞いてから博は自身の腕時計を見た。
「…っと、坂本くん、走らないとまずいかもよ」
「あ?…げ。しょうがねぇな…走るぞ長野!」
「合点承知!!」
自らも腕の時計で時間を確認し、博の答えを待ってから走り出す。
どうやら今日も慌ただしい一日になりそうだ。
一方、長野家の朝はいつも穏やかに始まりを告げる。
「おはよう、快彦」
「あ、兄貴おはよう。今日は早いじゃん」
「うん。朝一で会議があるから早めに行こうと思ってね」
キッチンでフライパンを翻しながら、朝の挨拶を交わそうと顔を覗かせた博に快彦はあはっと微笑んだ。
長野家で一番朝が早いのは全ての家事を請け負っている次男の快彦である。
兄や弟のために毎朝早起きして朝食を作り、こうして全員が食卓に着くのを待っているのだ。
「ヒロ兄、ヨシ兄、おはよ~」
「健、おはよう」
「おはよう健ちゃん。何?健ちゃんも今日は随分早いんじゃないの?」
「昨日学校の宿題どうしても分かんないのがあってさ。ヒロ兄に教えてもらおうと思って」
ダメ?と可愛らしく小首を傾げられてしまえば断れるはずもない。
博は苦笑してどれが分からないの?と聞いてやった。
「さんきゅ~ヒロ兄vやっぱり俺の自慢の兄貴だよなぁ~♪」
「えー健ちゃん俺は??」
「ヨシ兄はウザイから却下」
「ひどっ!!」
「あはは」
そんな風に明るい会話が交わされるのが長野家のいつもの朝の風景である。
(約一名本気で凹んでいる人間が居なくもないのだが)
「おはよう、快彦」
「あ、兄貴おはよう。今日は早いじゃん」
「うん。朝一で会議があるから早めに行こうと思ってね」
キッチンでフライパンを翻しながら、朝の挨拶を交わそうと顔を覗かせた博に快彦はあはっと微笑んだ。
長野家で一番朝が早いのは全ての家事を請け負っている次男の快彦である。
兄や弟のために毎朝早起きして朝食を作り、こうして全員が食卓に着くのを待っているのだ。
「ヒロ兄、ヨシ兄、おはよ~」
「健、おはよう」
「おはよう健ちゃん。何?健ちゃんも今日は随分早いんじゃないの?」
「昨日学校の宿題どうしても分かんないのがあってさ。ヒロ兄に教えてもらおうと思って」
ダメ?と可愛らしく小首を傾げられてしまえば断れるはずもない。
博は苦笑してどれが分からないの?と聞いてやった。
「さんきゅ~ヒロ兄vやっぱり俺の自慢の兄貴だよなぁ~♪」
「えー健ちゃん俺は??」
「ヨシ兄はウザイから却下」
「ひどっ!!」
「あはは」
そんな風に明るい会話が交わされるのが長野家のいつもの朝の風景である。
(約一名本気で凹んでいる人間が居なくもないのだが)
坂本家の朝は実質、長男昌行の叫び声から始まる。
「剛~!!てめぇいいかげん起きやがれぇ~っ!!」
「・・・Zz」
ちょっとやそっとじゃびくともしない、まさに眠りの帝王である坂本家次男剛は今日も気持ちよさそうな寝息を立てて昌行の神経をこれでもかと言うほどに逆撫でしていた。
隣の部屋で寝ているはずの三男准一が昌行の絶叫で起きてしまわない辺り、彼らの血の繋がりを感じる所である。
「今日もサッカー部の朝練があんだろうがっ!!」
「・・・むにゃ」
「むにゃじゃねぇっ!!」
しかし昌行が声を枯らせてまで叫んだ所で剛が起きることは100%ないと言い切れる。
もはや強攻策に出るしかあるまい。
昌行はいつもの通りそう決心すると、掛け布団を勢いよく引っぺがし、剛をベッドの上から床へと勢いよく蹴り落とした。
・・・が、それだけではこのツワモノはまだ目を覚まさない。
昌行は剛の頭の傍で膝を付くと、右手で彼の鼻と口を覆った。
待つこと約一分。
「このクソ兄貴!!俺を殺す気かっ!!」
「死にたくなきゃさっさと起きろよ!!」
こんな風に剛が生死の境を朝っぱらから彷徨う事になるのも坂本家にとってはいつものことなのである。
(それで済ませていいのかどうかは判断が分かれる所ではあるが)
***********
以前どこかに載せた気がするけど、どこに載せたか分からなくなったので収納。
「剛~!!てめぇいいかげん起きやがれぇ~っ!!」
「・・・Zz」
ちょっとやそっとじゃびくともしない、まさに眠りの帝王である坂本家次男剛は今日も気持ちよさそうな寝息を立てて昌行の神経をこれでもかと言うほどに逆撫でしていた。
隣の部屋で寝ているはずの三男准一が昌行の絶叫で起きてしまわない辺り、彼らの血の繋がりを感じる所である。
「今日もサッカー部の朝練があんだろうがっ!!」
「・・・むにゃ」
「むにゃじゃねぇっ!!」
しかし昌行が声を枯らせてまで叫んだ所で剛が起きることは100%ないと言い切れる。
もはや強攻策に出るしかあるまい。
昌行はいつもの通りそう決心すると、掛け布団を勢いよく引っぺがし、剛をベッドの上から床へと勢いよく蹴り落とした。
・・・が、それだけではこのツワモノはまだ目を覚まさない。
昌行は剛の頭の傍で膝を付くと、右手で彼の鼻と口を覆った。
待つこと約一分。
「このクソ兄貴!!俺を殺す気かっ!!」
「死にたくなきゃさっさと起きろよ!!」
こんな風に剛が生死の境を朝っぱらから彷徨う事になるのも坂本家にとってはいつものことなのである。
(それで済ませていいのかどうかは判断が分かれる所ではあるが)
***********
以前どこかに載せた気がするけど、どこに載せたか分からなくなったので収納。
第二十区画最前線司令部。
「失礼します、大佐。来客中申し訳ありません。特殊部隊より援軍が到着しました」
藤ヶ谷中尉のその呼び掛けに、応えたのは室内にいた二人の男の内、部屋の奥に置かれたデスクにいた三十代前半の男の方だった。
強面ながら整った顔立ちに均整の取れたモデル体型をした彼は、この最前線司令部の最高責任者、坂本昌行大佐である。
彼は部下に視線を送ると頷いて返す。
「そうか。何人だ?」
良く通るハリのある美声の問いかけに対し、藤ヶ谷が返した声は色良いものではなかった。
「それが…」
答えを言い淀み、濁した語尾に続く言葉を彼が紡ぐより先に、その背後から、割り込むようにして聞こえてきたのは、思いの他若い声。
「三人だよ」
「えっ!?」
驚き、振り向いた藤ヶ谷を押しのけるようにして室内に入ってきたのは、その言葉の通り三人の青年だった。
その内の二人…眼光鋭くちらりと見える八重歯が特徴的な青年、剛と、男にしては妙に可愛らしい顔をした青年、健は不敵な笑みを浮かべ、上官の前だというのに敬礼すらする気配のないまま不躾な言葉を並べる。
「援軍は俺たち三人だ・け。ま、十分過ぎると思うけどな」
「正直、一人でも十分だと思うけどね」
「お、お前たち!大佐の前でなんという口の聞き方だ!!」
礼儀を弁えない言動に激昂する藤ヶ谷に対し、二人は平然とした顔で笑みさえ浮かべてみせる。
「悪いけど、俺たち郷に入っては郷に従えって言うのだいっ嫌いなんだよね」
「上司だろうがなんだろうが関係ねぇよ。俺たちが従うのは自分たちより強い人間のみだ」
「なっ…貴様ら…!!」
軍人とは到底思えない二人の発言に、とうとう懐のホルスターに手をかけた藤ヶ谷を止めたのは、低く落ち着いた声だった。
「安い挑発に乗るな、藤ヶ谷」
そう言って相手を一瞥したのは坂本である。
彼は一つ、静かに息を吐くと、デスクの上で手を組んで、鋭い眼光を真っ直ぐに剛へと向けた。
「随分自信があるようだな。それだけ言うには腕は確かなんだろうな」
「へぇ…ムカつくこと言ってくれんじゃん。なんなら見せてやろうか?あんたにっ!!!」
凶悪な笑みを浮かべた剛がそう吼えた途端、彼の元に眩いばかりの雷光が走った。
それはバチバチッと派手な音を立てて彼の周りでのた打ち回り、やがてその全身を包み込む。
「くっ…くそっ!!」
暴挙を阻止しようと藤ヶ谷が慌ててホルスターから拳銃を引き抜いたが、しかし。
その時には既に、剛は床を蹴って部屋の奥へと疾風の如く翔けてしまっている。
彼は身に纏った雷光をいつの間にか右手の拳に集中させて、それを坂本目掛けて放とうとした。
が。
「…なっ!?」
「剛!?」
驚愕の声を上げたのは坂本ではなく、剛と健の方だった。
「…全く、礼儀がなってないなぁ、君たち」
場にそぐわないほどの穏やかで落ち着いた声が、静かに言葉を紡ぐ。
それは先からずっと、坂本の机の前に立っていた人物から発せられたものだった。
そして驚いたことに、その彼の手によって剛の右腕はしっかりと捕まえられてしまっていた。
身に纏っていた雷光までも、彼に止められた瞬間、その姿を消してしまっている。
これは、一体?
「本当に強い人間はそれをひけらかす真似はしないと思うけど?」
そう言って柔らかく微笑んだ男の瞳は笑っていなかった。
途端ぞくりと走った寒気に剛は言葉を無くす。
力が効かない。
いや、違う。
今のは明らかに、力を消された。
動揺したままちらりと見やった男の後ろの坂本は、先までと変わらない姿勢のまま平然と、冷静な顔で彼らを傍観している。
まるで自分が動かなくとも、男が動く事を最初から知っていたかのように。
「あ、あんた一体…?」
「剛の力が利かないなんて、そんな…!!」
二人の問いかけに答えることなく、優しげな顔立ちをした男はやはり変わらない、穏やかな声のまま柔和な表情を浮かべて言う。
「礼儀を示す?それともまだ牙を向く?答えによっては…」
「っ!!」
捕まえられた腕をぎりっと強く握られる。
が、それを止めたのはやはり坂本だった。
「…長野。そこまでにしておけ」
「あれ?いいの?」
「そいつらにもう戦う意思はない。そうだろう」
言って、ちらりと坂本が視線を向けたのは、剛と健、そのどちらでもなく。
入室から今まで微動だにせず、部屋の後方で事の次第を見守り続けていた美形の青年、岡田だった。
問われた彼は一拍の間の後、大きな瞳をすっと閉じると、丁寧に腰を折って頭を深く下げた。
「先までの数々の無礼、どうぞお許し下さい」
そう詫びると頭を上げ、未だ悔しそうな顔で男…長野を睨んでいる二人の前に進み出て、軍式の敬礼の形を取る。
すると長野の腕を振り解いた剛と健も渋々と言った表情ながら彼の横に並んで敬礼の形を取った。
「改めまして、我々は特殊部隊より派遣されました」
「森田剛」
「三宅健」
「岡田准一と申します。我々はあなた方の力を認め、正式に配下に付かせて頂きます。どうぞよろしくお願いいたします」
「だって。坂本くん」
茶化すような響きのある、楽しそうな長野の言葉にため息を一つ落とした後。
坂本はようやく腰を上げて、三人を真っ直ぐに見据え、言った。
「俺はこの区画の最高責任者、坂本昌行大佐だ。今後よろしく頼む」
***************
前々から軍モノ(しかも特殊能力系)を書いてみたかったんです。
書きたいトコは書けたんで満足です。(要するに続かないらしい・笑)
てーか井ノ原さんが出てきてませんけども、彼は諜報部所属でそのうち顔を出す設定なんです。(笑)
ちなみにタイトルの「World Start Turning」はV6さんの公式サイトBGMタイトルから。
「世界は回り始めた」って自分の中では訳してるんですが、果たして合ってるのかどうか。(笑)
あっ!部下が藤ヶ谷氏なのは趣味です!(言い切った)