The Angel Cradle.
飛び立つこともままならない。 座り込むことすら許されない。 僕らはいつも、不安定な足場の上に。
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第二十区画最前線司令部。
「失礼します、大佐。来客中申し訳ありません。特殊部隊より援軍が到着しました」
藤ヶ谷中尉のその呼び掛けに、応えたのは室内にいた二人の男の内、部屋の奥に置かれたデスクにいた三十代前半の男の方だった。
強面ながら整った顔立ちに均整の取れたモデル体型をした彼は、この最前線司令部の最高責任者、坂本昌行大佐である。
彼は部下に視線を送ると頷いて返す。
「そうか。何人だ?」
良く通るハリのある美声の問いかけに対し、藤ヶ谷が返した声は色良いものではなかった。
「それが…」
答えを言い淀み、濁した語尾に続く言葉を彼が紡ぐより先に、その背後から、割り込むようにして聞こえてきたのは、思いの他若い声。
「三人だよ」
「えっ!?」
驚き、振り向いた藤ヶ谷を押しのけるようにして室内に入ってきたのは、その言葉の通り三人の青年だった。
その内の二人…眼光鋭くちらりと見える八重歯が特徴的な青年、剛と、男にしては妙に可愛らしい顔をした青年、健は不敵な笑みを浮かべ、上官の前だというのに敬礼すらする気配のないまま不躾な言葉を並べる。
「援軍は俺たち三人だ・け。ま、十分過ぎると思うけどな」
「正直、一人でも十分だと思うけどね」
「お、お前たち!大佐の前でなんという口の聞き方だ!!」
礼儀を弁えない言動に激昂する藤ヶ谷に対し、二人は平然とした顔で笑みさえ浮かべてみせる。
「悪いけど、俺たち郷に入っては郷に従えって言うのだいっ嫌いなんだよね」
「上司だろうがなんだろうが関係ねぇよ。俺たちが従うのは自分たちより強い人間のみだ」
「なっ…貴様ら…!!」
軍人とは到底思えない二人の発言に、とうとう懐のホルスターに手をかけた藤ヶ谷を止めたのは、低く落ち着いた声だった。
「安い挑発に乗るな、藤ヶ谷」
そう言って相手を一瞥したのは坂本である。
彼は一つ、静かに息を吐くと、デスクの上で手を組んで、鋭い眼光を真っ直ぐに剛へと向けた。
「随分自信があるようだな。それだけ言うには腕は確かなんだろうな」
「へぇ…ムカつくこと言ってくれんじゃん。なんなら見せてやろうか?あんたにっ!!!」
凶悪な笑みを浮かべた剛がそう吼えた途端、彼の元に眩いばかりの雷光が走った。
それはバチバチッと派手な音を立てて彼の周りでのた打ち回り、やがてその全身を包み込む。
「くっ…くそっ!!」
暴挙を阻止しようと藤ヶ谷が慌ててホルスターから拳銃を引き抜いたが、しかし。
その時には既に、剛は床を蹴って部屋の奥へと疾風の如く翔けてしまっている。
彼は身に纏った雷光をいつの間にか右手の拳に集中させて、それを坂本目掛けて放とうとした。
が。
「…なっ!?」
「剛!?」
驚愕の声を上げたのは坂本ではなく、剛と健の方だった。
「…全く、礼儀がなってないなぁ、君たち」
場にそぐわないほどの穏やかで落ち着いた声が、静かに言葉を紡ぐ。
それは先からずっと、坂本の机の前に立っていた人物から発せられたものだった。
そして驚いたことに、その彼の手によって剛の右腕はしっかりと捕まえられてしまっていた。
身に纏っていた雷光までも、彼に止められた瞬間、その姿を消してしまっている。
これは、一体?
「本当に強い人間はそれをひけらかす真似はしないと思うけど?」
そう言って柔らかく微笑んだ男の瞳は笑っていなかった。
途端ぞくりと走った寒気に剛は言葉を無くす。
力が効かない。
いや、違う。
今のは明らかに、力を消された。
動揺したままちらりと見やった男の後ろの坂本は、先までと変わらない姿勢のまま平然と、冷静な顔で彼らを傍観している。
まるで自分が動かなくとも、男が動く事を最初から知っていたかのように。
「あ、あんた一体…?」
「剛の力が利かないなんて、そんな…!!」
二人の問いかけに答えることなく、優しげな顔立ちをした男はやはり変わらない、穏やかな声のまま柔和な表情を浮かべて言う。
「礼儀を示す?それともまだ牙を向く?答えによっては…」
「っ!!」
捕まえられた腕をぎりっと強く握られる。
が、それを止めたのはやはり坂本だった。
「…長野。そこまでにしておけ」
「あれ?いいの?」
「そいつらにもう戦う意思はない。そうだろう」
言って、ちらりと坂本が視線を向けたのは、剛と健、そのどちらでもなく。
入室から今まで微動だにせず、部屋の後方で事の次第を見守り続けていた美形の青年、岡田だった。
問われた彼は一拍の間の後、大きな瞳をすっと閉じると、丁寧に腰を折って頭を深く下げた。
「先までの数々の無礼、どうぞお許し下さい」
そう詫びると頭を上げ、未だ悔しそうな顔で男…長野を睨んでいる二人の前に進み出て、軍式の敬礼の形を取る。
すると長野の腕を振り解いた剛と健も渋々と言った表情ながら彼の横に並んで敬礼の形を取った。
「改めまして、我々は特殊部隊より派遣されました」
「森田剛」
「三宅健」
「岡田准一と申します。我々はあなた方の力を認め、正式に配下に付かせて頂きます。どうぞよろしくお願いいたします」
「だって。坂本くん」
茶化すような響きのある、楽しそうな長野の言葉にため息を一つ落とした後。
坂本はようやく腰を上げて、三人を真っ直ぐに見据え、言った。
「俺はこの区画の最高責任者、坂本昌行大佐だ。今後よろしく頼む」
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前々から軍モノ(しかも特殊能力系)を書いてみたかったんです。
書きたいトコは書けたんで満足です。(要するに続かないらしい・笑)
てーか井ノ原さんが出てきてませんけども、彼は諜報部所属でそのうち顔を出す設定なんです。(笑)
ちなみにタイトルの「World Start Turning」はV6さんの公式サイトBGMタイトルから。
「世界は回り始めた」って自分の中では訳してるんですが、果たして合ってるのかどうか。(笑)
あっ!部下が藤ヶ谷氏なのは趣味です!(言い切った)
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