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The Angel Cradle.

飛び立つこともままならない。 座り込むことすら許されない。 僕らはいつも、不安定な足場の上に。

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ぐぅ、と言う小さな腹の虫の鳴き声を聞き逃さなかったらしい男は、休憩スペースに入ってくるなり恭しくそれを差し出した。
「焼きたてのカルツォーネはいかがですか、シニョーレ?」
手渡されたワックスペーパーの袋に入っていたのは、その言葉通り、焼きたてのカルツォーネだった。
カルツォーネはヴィットリアのランチ限定テイクアウトメニューの中で一番の売れ筋商品である。
トマトソースをベースにハム、モッツァレラチーズなどを包んだ半円形の生地を、ピザと同じく石窯で外さっくり、中ふんわりに焼き上げる。
フィリングは季節によって変わる・・・と言いたいところだが、その実、男・・・カポクオーコ(料理長)である坂本の気分次第でコロコロ変わったりするのが特徴だ。
「Grazie(グラッツィエ)。あ、もちろん代金は坂本くん持ちだよね?」
「ってお前、オーナーがセコイこと言うなよ・・・」
「No(ノ)!オーナーだからこそ言うんですー」
「あーはいはい」
分かったから熱いうちに食え、と坂本が折れてくれたので、長野は腹の虫を鎮めるべく、ありがたくご相伴に預ることにした。
さて、今日のフィリングは何かな?
ちょっとしたわくわく感を抱きつつ、ぱくりと一口食べてみれば、中にはとろりとしたチーズにサイコロ状のナスとフレッシュトマト、それにパンチェッタがごろごろ入っていた。
「うん、おいしい!今日のメインはナスか~」
「いいナスを仕入れてただろ?せっかくだしな」
ついでにナス漬けも作っておいた、とさらりと言われたイタリアンレストランには無関係な一品はつまり、坂本が単純に食べたかったから作ったと言う意味である。
オーナーである長野としては、職権乱用も甚だしいと言いたいところではあるが、このカルツォーネの味に免じて許すことにした。
と言うかナス漬けは後でおすそ分け頂く。もちろん強制で。
「そうだ、お飲物は何にいたしますか、シニョール・ヒロシ」
芝居がかった口調を続行する坂本に付き合って、メニューを眺めて悩むようなしぐさをした後、長野は人差し指を立ててにこりと笑う。
「The freddo alla pesca per favore(桃のアイスティーを下さい)」
「Entendu(かしこまりました)」
イタリアの夏の定番ドリンクと言えばテ・フレッド(アイスティー)である。
桃味(アラ・ペスカ)とレモン味(アル・リモーネ)の二種類があり、これがとにかく甘いのだ。
ヴィットリアではお客様の好みに合わせて味の調整ができるようにしているが、長野好みの味は言うまでもなく現地仕様である。
こんなものを飲める奴の気がしれない、と密かに坂本が思っていることは秘密だ。

**********

日記掲載文を収納。
ヴィットリアで一本書きたいなーと思っていたら、ただ単にカルツォーネとテ・フレッドの説明をするだけの文が出来上がりましたっていう。(大笑)
俺がカルツォーネが食べたかったが故に出来上がった文とも言う。(え)

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