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The Angel Cradle.

飛び立つこともままならない。 座り込むことすら許されない。 僕らはいつも、不安定な足場の上に。

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Vittoriaの過去ログを収納ついでに落書きをしてみたのでござるの巻。(何)
最近線画が面倒で落書きばかり量産している光騎さんです。(笑)

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・・・と、そうそう。
ここで一つ説明を挟んでおこう。
前述したが、私は坂本昌行と言う一人の例外を除き、人間に抱きあげられるのがあまり好きではない。
けれどもどうしてか。
ことこの男、長野博に関してだけは、何があろうとも逆らってはならないと私の野生の勘が警鐘を鳴らしている為、何をされようとも大人しくしていようと心に誓っている。
見かけは柔和で優しげな、いかにも人畜無害と言った風貌の男なのだが、それは一体どういう事なのか。
彼の本質を私はまだ知らないでいる。
・・・いや、もしかしたらばそれは、所謂『知らぬが仏』と言うヤツなのかもしれないが。
う、うむ。

まぁそんなわけで、私は長野博に大人しく抱かれたまま、坂本昌行が昼食の準備をしているダイニングキッチンへと向かった。
一階向かって右手にあるその部屋は、坂本昌行のこだわりが全面に反映されている(らしい)空間である。
多人数のパーティーがいつでも開けそうな広々としたダイニングの、中央に鎮座するのはアイランド型のキッチンブースだ。
黒とシルバーでカラーリングされたそれは、洗練された都会の雰囲気を醸し出している・・・のだと思う。多分。
そう言えば説明を忘れていたが、このアパルトメントは坂本昌行と長野博が共同出資して建てたものである。(ちなみに築半年である)
なので建物の随処に二人のこだわりが詰め込まれているらしいのだが、猫である私には正直その辺の事は良く分からない。
それと二階にはいくつか使われていない部屋があるのだが、それは将来的にVittoriaの従業員用の部屋になるらしい。
いわゆる社員寮と言うヤツである。
みんな越して来たら賑やかになるね、と嬉しそうに長野博が坂本昌行に話しているのを聞いたのがつい先日のことだ。
どうやら井ノ原快彦は近日中に越してくる予定があるようで、学生組からは(社員登用前提で)学校を卒業したらすぐにでも越して来たいと言う要望が出ているらしい。
否が応にも賑やかになりそうな我が家に、私は独りため息を零すのだった。

******

日記(2014/08/01)掲載文を収納。

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私たちが暮らす石造り風のアパルトメントは、日本で一般的に言うアパートとは少々作りが異なる。
まず玄関扉を開くと、高い天井に豪奢なシャンデリアが輝くエントランスホールがあり、その中央には二階へと続く大階段がある。
一階にはホール向かって右手にダイニングキッチン、左手にゲストルームがあり、それらは全て土足を許されたスペースの為、私は汚れた足でも気にせず闊歩することが出来た。
それは年中無休で裸足の猫にとってはとてもありがたい配慮である。
二階には坂本昌行と長野博の部屋がそれぞれと、バス・トイレなどの共用スペースがある。
ちなみに二人の部屋はさすがに土足厳禁であり、どちらかの部屋にお邪魔する場合、私はバスルームで体を洗われる羽目になるのだが、しかし。
お恥ずかしながら私も御多分に洩れず水が大の苦手であるがゆえ、毎度大暴れしては二人を困らせているわけで……うむ。
反省はしているのである。
一応は。
うむ。

と、まぁ詰まるところ要するに、我が家は外観はアパルトメント風の一軒家と言った方が良いだろう。
ゆえに男三人、もとい男二人とオス一匹のルームシェアなのである。
それは長らく野良として生きて来た私にとって、十分すぎるほどに恵まれた環境である。

さて、それでは話を元に戻そう。

「ただいま。ひと段落したから昼飯休憩にな。なぁセッテ」
「にゃう」
「おっ、新作の開発状況はいかがですか、料理長殿」
「まぁぼちぼちだな」
やや芝居がかった長野博の問いかけに、口角を上げた坂本昌行は実に不敵な笑みを浮かべて見せる。
つまりはその言葉とは裏腹に、成果は上々と言うわけだ。
それらの話を鑑みるに、どうやら彼は貴重な休日を返上して新作メニューの開発に着手していたらしい。
厨房から聞こえて来た上機嫌な鼻歌は、新作の出来に満足した彼の心の現れだったようだ。
「それはそれは結構な事で」
「そうだ、お前時間あるなら後で味見てくれないか?」
「Certo!(もちろん!)時間なんていくらでも作るよ!」
美味しいものに目が無い我らがパドローネは、子供のように目をキラキラとさせて首を縦に振る。
その反応に笑った坂本昌行は、でもまずは昼飯だな、と言い置くと私を長野博に引き渡し、キッチンの方へと向かって行った。
さて、今日の昼食はなんだろうかと私が考えていると、同じことを考えていたらしい長野博が、私を抱え直しながら「今日のお昼ご飯はなんだろうね、セッテ」と実に嬉しそうに口にする。
それはつまり、自分も御相伴に与るつもり満々でいる、と言う事だ。
しかも別段それを坂本昌行に告げたわけでもないのに、である。
けれども坂本昌行は多分、当たり前のように長野博の分の昼食も用意するのだろう。
何故かと言えば、それが彼らの日常であるからだ。
「ちょっと覗いてみようか、セッテ」
昼食が出来上がるのが待ちきれないのか、そう言った長野博は私を抱えたままキッチンの方へと歩き出した。
否やも無いので私はひとつにゃあと鳴いて同意を示してみる。
すると彼は小さく笑って、私の頭を優しく撫でるのだった。

******

日記(2014/07/31)掲載文を収納。

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イタリアンレストラン【Vittoria】の休業日は毎週水曜日だ。

客入りが無く、従業員もいない店の中はただただ静かで、とてもがらんとしている。
普段の活気を考えると少々物寂しい気もするが、従業員たちにとってみれば週に一度しかない貴重な休みである。
きっと今頃各々が思い思いの休日を過ごしていることだろう。
それはとても結構な事である。

・・・おや?
休業日だと言うのに、どうも厨房の方から人の気配がするような気がする。
もしや曲者か!?と一瞬身構えたのだが、どうもその気配には見知った匂いが伴っているようである。
はて、休業日に出勤するとはどこの物好きか。
些か興味を惹かれ、どれどれ・・・と厨房の方に足を向けてみれば、不意に誰かの声が聞こえて来た。
正確に言えばそれは誰かの歌声・・・いや、鼻歌で、よくよく耳を澄ませてみれば、曲目はサンタ・ルチアである。
それならば歌い手は一人しかいないだろうと、確信を持って辿り着いた厨房の中を覗けば、案の定。
そこに立っていたのは白いシャツに黒の腰巻エプロンをした姿のCapocuoco(カポクオーコ/料理長)、坂本昌行だった。
『坂本くんは機嫌がいいとサンタ・ルチアを歌い出すんだよね』
いつぞや店のPadrone(パドローネ/オーナー)であり、Cuoco(クオーコ/料理人)である長野博がそう口にしていたのを思い出す。
どうやら本日の料理長は御機嫌上々らしい。
朗々と歌い上げられるサンタ・ルチアとはまた違った、趣のあるその歌唱は、包丁が野菜を刻む小気味よい音と相まって実に耳に心地よい。
厨房の入口に身を潜めたまま、しばしの間その音楽に聴き入っていると、不意に鼻歌がやんで、頭上にふっと影が差した。
「Ciao Sette, Come stai?」
『よぉ、セッテ。調子はどうだ?』との流暢なイタリア語は言わずもがな、坂本昌行が発したものである。
どうやら彼は入口に潜んだ私の存在に気づき、傍にやってきたようだ。
折角なので私も「Bene, grazie」、『元気さ、ありがとう』と答えを返そう。
さぁ息を吸って、はいて、出来る限りの流暢なイタリア語で・・・

「にゃーあ。にゃおにゃお」

・・・いや、分かっていた。
分かってはいたさ。
残念ながら私はイタリア語はおろか、日本語だって話せはしない。
何故ならば私は、(自分で言うのもどうかとは思うが)このイタリアンレストラン【Vittoria】の看板ネコ、Sette(セッテ)だからである。
この店の七人目の従業員と言う意味を含んだ、イタリア語で数字の七を表すSetteと言う名は、この男、坂本昌行に付けられたものだ。
元は野良猫であった私を拾い、この店の看板ネコとしたのも何を隠そうこの男である。
ゆえに私は彼に一方ならぬ親しみを持っている。
そしてどうやらそれは彼も同じらしい。
坂本昌行は少々強面の顔を緩め、優しげな笑みを浮かべると、厨房の外に出て私を抱き上げた。
正直な話、人間に抱き上げられるのは余り好きではないのだが、彼の武骨な手がそっと優しく私の体をすくい上げる感覚は嫌いではない。
なので大人しくされるがままでいると、私の頭を軽く撫でた彼は、普段より幾分柔らかい声を出して私に言った。
「そろそろ休憩しようと思ってたとこなんだ。良い時間だし昼飯にするか、セッテ」
確かに廊下にある壁掛け時計の針は正午過ぎを指していて、私の腹の虫も今にも鳴き出しそうである。
ゆえに異論はもちろん無い。
返事の代わりににゃあと鳴けば、はは、と笑った彼が「Va bene(了解)」と言ってまた私の頭を撫でた。
「メニューは何にするかなぁ。そういえば最近和食食ってねぇんだよな…」
そんなことを言いながら私を抱いたまま歩き出した彼は、どうやら店の裏手へ向かっているらしかった。
そこにはイタリアのそれを意識した、真新しい石造り風のアパルトメントが一軒建っている。
二階建てのそれは彼と私、それにもう一人がルームシェアをして暮らす家である。
もう一人と言うのは言わずもがな・・・
「あれ?お帰り。二人揃ってどうしたの?」
そう、我らがVittoriaのPadrone、長野博その人である。
玄関扉を開いたらば、ちょうど二階から降りて来たらしい彼が私たちに気づき、柔和な微笑みを浮かべて緩く首をかしげた。

******
日記(2013/08/07)掲載文を収納。

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ぐぅ、と言う小さな腹の虫の鳴き声を聞き逃さなかったらしい男は、休憩スペースに入ってくるなり恭しくそれを差し出した。
「焼きたてのカルツォーネはいかがですか、シニョーレ?」
手渡されたワックスペーパーの袋に入っていたのは、その言葉通り、焼きたてのカルツォーネだった。
カルツォーネはヴィットリアのランチ限定テイクアウトメニューの中で一番の売れ筋商品である。
トマトソースをベースにハム、モッツァレラチーズなどを包んだ半円形の生地を、ピザと同じく石窯で外さっくり、中ふんわりに焼き上げる。
フィリングは季節によって変わる・・・と言いたいところだが、その実、男・・・カポクオーコ(料理長)である坂本の気分次第でコロコロ変わったりするのが特徴だ。
「Grazie(グラッツィエ)。あ、もちろん代金は坂本くん持ちだよね?」
「ってお前、オーナーがセコイこと言うなよ・・・」
「No(ノ)!オーナーだからこそ言うんですー」
「あーはいはい」
分かったから熱いうちに食え、と坂本が折れてくれたので、長野は腹の虫を鎮めるべく、ありがたくご相伴に預ることにした。
さて、今日のフィリングは何かな?
ちょっとしたわくわく感を抱きつつ、ぱくりと一口食べてみれば、中にはとろりとしたチーズにサイコロ状のナスとフレッシュトマト、それにパンチェッタがごろごろ入っていた。
「うん、おいしい!今日のメインはナスか~」
「いいナスを仕入れてただろ?せっかくだしな」
ついでにナス漬けも作っておいた、とさらりと言われたイタリアンレストランには無関係な一品はつまり、坂本が単純に食べたかったから作ったと言う意味である。
オーナーである長野としては、職権乱用も甚だしいと言いたいところではあるが、このカルツォーネの味に免じて許すことにした。
と言うかナス漬けは後でおすそ分け頂く。もちろん強制で。
「そうだ、お飲物は何にいたしますか、シニョール・ヒロシ」
芝居がかった口調を続行する坂本に付き合って、メニューを眺めて悩むようなしぐさをした後、長野は人差し指を立ててにこりと笑う。
「The freddo alla pesca per favore(桃のアイスティーを下さい)」
「Entendu(かしこまりました)」
イタリアの夏の定番ドリンクと言えばテ・フレッド(アイスティー)である。
桃味(アラ・ペスカ)とレモン味(アル・リモーネ)の二種類があり、これがとにかく甘いのだ。
ヴィットリアではお客様の好みに合わせて味の調整ができるようにしているが、長野好みの味は言うまでもなく現地仕様である。
こんなものを飲める奴の気がしれない、と密かに坂本が思っていることは秘密だ。

**********

日記掲載文を収納。
ヴィットリアで一本書きたいなーと思っていたら、ただ単にカルツォーネとテ・フレッドの説明をするだけの文が出来上がりましたっていう。(大笑)
俺がカルツォーネが食べたかったが故に出来上がった文とも言う。(え)

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*AVIARY*

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