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The Angel Cradle.

飛び立つこともままならない。 座り込むことすら許されない。 僕らはいつも、不安定な足場の上に。

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そうそう、相棒の紹介ばかりで俺自身の自己紹介がまだだった。
俺の名前は坂本昌行、目下彼女募集中の独身28歳。
子供に嫌われる強面をしているが、決してもてないわけじゃないと言う言い訳を虚しいとは思いつつ一応しておこうと思う。
カレンダー上での休みなどとは全く関係のない生活をしている、一応作家と言う身分で、ついでに言えば専門はもっぱら児童文学である。
基本的には小学校中~高学年を対象にした本をちまちまと書いている。
最近では趣味で描いていた絵が編集の目に留まり、文章だけじゃなく挿絵も自分で描く様になった。
おかげさまで現在収入は割かし安定している。
このご時勢において、それは非常にありがたい事である。
「みゃあん」
「ん?」
正に猫なで声、とでも言うのか。
いきなり妙に甘えた鳴き声を上げた相棒は、テーブルの上からするりと降りて一目散に駆け出した。
何事かと思い後ろを振り向けば、あぁ、と俺は納得する。
「おかえり」
「ただいま~外すっごい寒いよ。風が強くて飛ばされそうになっちゃったよ」
冗談混じりにそう言いながらマフラーを解いているのは、買い物に出ていたもう一人の同居中の相棒(人間)、長野博である。
俺より一個下の27歳会社員、こちらも同じく独身。
いかにも優しげな風貌にしっくりとくる柔らかな微笑み(プラス左の目元に泣きぼくろ)、まぁるい声が特徴。
付き合いは中学時代からと言ういわゆる腐れ縁で、高校卒業後から訳合って同居をすることになり現在に至るのだが、その理由を説明すると長くなるので今の所は割愛させて頂く。
長野は着ていたコートを脱いでイスの背にかけると、足元にまとわりついている黒猫を抱き上げて暖を取るように腕の中に囲い込んだ。
「おー暖かい。お前日向ぼっこでもしてた?お日様の匂いがするよ」
「にゃぁん」
ごろごろと盛大に喉を鳴らして長野に甘えまくる相棒。
そう、この黒猫はやたらと長野になついていた。
自分を拾ってくれた人間だと分かっているからなのかなんなのか、とにかく長野の言う事ならばなんでもよく聞いた。
俺の言う事は…言わずもがなである。
「坂本くんはちゃんと仕事してた?」
「みゃみゃ」
「してなかったの?」
「みゃー」
完璧に成立しているように聞こえる一人と一匹の会話…が、問題はそこじゃない。
「…お前なぁ、猫に見張りなんか頼むんじゃねぇよ」
先ほどの猫パンチ。
こいつは編集部の回し者じゃなくて長野の回し者だったのか。
「だって坂本くん、目を離すとすぐにさぼろうとするんだもん。ねー?」
「みゃう」
26の男がだもんとか言うんじゃねぇー
つーかお前も応えるように鳴くんじゃねぇー
そもそもこの家に俺の味方はいないのかっ!!
「で、どこまで進んだ?」
「うっ!」
言うなりひょいとノートパソコンの画面を覗き込んだ長野は、それを見た途端、急にすぅっと目の色を変える。
うおっ!!怖っ!!
「…俺が出かけに見たのとほとんど変わってないように見えるけど?」
「す、すんませんっ!!」
顔は笑ってるのに目は笑ってない。
この長野の表情は俺が最も不得意とするもので、つい反射的に謝りの言葉を口にしてしまう。
な…情けない…
余りにも情けなさ過ぎるぞ俺!!
「知らないよ?これ今日が締め切りなんでしょ?今朝光一から電話あって昼過ぎに来ますって言ってたよ?」
「げっ!!マジかよ…」
「自業自得。さ、俺は昼ごはんでも作ろうかな。お前もお腹すいたよね?」
「みゃあ」
「…長野ぉ~」
「はいはい、ちゃんと坂本くんの分も作ってあげるから、さっさとそれ終わらせちゃいなさい」
呆れた顔を隠しもしないで(むしろ露骨に出して)そう言った長野に肩をつかまれ、くるりと体を元の方向に戻される。
…なんか俺、完全に駄目人間じゃねぇか?
自分の情けなさ加減に涙しそうになった俺に、猫の相棒は長野の腕の中でからかうようににゃあと鳴いた。
…ちくしょう。

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