The Angel Cradle.
飛び立つこともままならない。 座り込むことすら許されない。 僕らはいつも、不安定な足場の上に。
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「うっわ、すげ、雪っ」
「わーほんとだ。すごいなー」
収録を終えて出た局の外。
いつの間にか降り出していたらしい雪が、眼前の町並みを真っ白に染め上げていた。
そう言えば今日は雪が降るって天気予報で言ってたっけ。
剛はふと思い出して、降り行くその白を見つめた。
真っ白な塊がちらちらと空から落ちてくる様は、東京に住む人間にとっては一年に数回しか見ることの出来ない珍事だ。
ゆえに迷惑だと思うよりも先に、妙に心が浮き足立つのは仕方がないことだろう。
ここに健と井ノ原あたりがいたのなら真っ先に外に出てはしゃいでいただろうが、並んで雪を見ていたのは長野と剛の二人である。
どちらも降りしきる雪の中に突っ込んでいくようなことはしないで、ただ玄関先でその景色を見上げていた。
「…つーか、さみぃ」
しばらくして。
思い出したようにそう呟き、猫のように身をすくめた剛を笑って、長野が言った。
「行こうか。いつまでも眺めてるわけには行かないし」
「うん」
二人はこれから一緒に食事に行くところだった。
珍しいこともあるもので、長野からの食事の誘いに剛が頷いたのだ。
長野お勧めの店は局の近くにあるらしく、二人は徒歩で店を目指すことにしたのだがいかんせん、この雪では店に着くまでにびしょ濡れになってしまいそうだ。
「折り畳み傘あるから、これで行こう」
言って長野が鞄から取り出したのは一つの折り畳み傘。
相変わらず用意のいい人だよなぁ、と剛は思いつつ、一本しかないってことは相合傘ですか?なんてことに気づいてちょっと気まずくなってみたりもする。
「…こんなちっちぇーのに二人で入んの?」
「大丈夫だろ、店までそんな遠くないし」
少しだけ相合傘で我慢してよ、と笑う長野に剛は渋々頷くしかない。
わざわざ局に戻ってスタッフに声をかけるのも面倒だ。
「はい、どうぞ」
ポンと傘を開いて長野は剛を招き入れる。
当然傘の柄を持つのは剛よりも身長の高い長野の方だ。
傘は剛の方に多く傾いていて、長野らしさを伺える。
彼の優しさは海よりも深い。
「…長野くんさぁ」
「うん?」
優しいって損することの方が多いんじゃねぇ?
ノドまで出掛かったその問いをなんとか飲み込んで、剛は首を振る。
「…なんでもねぇ」
「え?なんだよ、今明らかに言いたいこと飲み込んだだろ、お前」
「別に、なんでもなかった」
「えぇ?」
なんだよそれ、と納得のいかない顔をしている長野に対し、剛は文字通り笑って誤魔化しにかかる。
彼が優しさで傷つくことがあるのなら、それを分かってやれる自分たちが彼を守ればいいだけのことだ。
優しい人間が苦手だと言う自分の価値観を、変えてくれたこの人を。
自分たちならばそれが出来ると、勝手ながら思っているから。
「雪、どんだけ積もんのかな」
「誤魔化したな、全く」
「もうちょこっと積もり始めてるしさぁ」
「…まぁ、この降り方じゃそうは積もらないんじゃないかな。明日には溶けてるよ」
追求をあきらめてくれたらしい長野はそう言って、足元にうっすらと積もった雪を踏みしめる。
結局のところ自分もそんな長野の優しさに甘えてしまっていることに気づいて、剛は一人苦笑した。
それならば、せめて。
「長野くん」
「ん?」
「今日、俺が奢る」
「えぇ?」
それくらいはしてもいいんじゃないかと思っての発言だったのだけれど。
肝心の長野はと言えば、珍妙な表情を浮かべた後。
「明日は雪じゃなくて、霰が降るんじゃないか?」
そんなことを言って、大きく笑った。
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どこかの雑誌で『優しい人が苦手だった』と森田さんが発言されていたので、それを掘り下げようとしたら掘り下げるどころかちょろっと触れただけになったって言う残念な話。(え)
暑いのであえて冬の話を出してみたり。(笑)
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