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The Angel Cradle.

飛び立つこともままならない。 座り込むことすら許されない。 僕らはいつも、不安定な足場の上に。

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しとしとと。
細かな雨粒が地面に落ちる。

雨宿りに駆け込んだとある店の軒下。
すこし錆の浮いたトタン屋根を。

ぽたん、ぱたん。

耳障りではなく、むしろ心地良く。
不揃いなリズムを奏でて、雨粒は叩く。

少し濡れてしまった服を、
時折吹く風がひやり、と撫でて。
その冷たさに近づいて来ている冬を感じながら、
こらえきれなかったくしゃみをした。

すると隣で息が漏れる音。

何も笑うことは無いだろうに。
不満を顔に出したなら、隣人はもっと笑みを濃くして。
大きく一歩、立つ距離を縮めた。
濡れた肩がとん、とぶつかる。
そこからじんわりと伝わる、優しい体温。
あたたかさ。

…まぁ笑ったのは許してやろう。

我ながら偉そうにそう思った。


******************************


相変わらず雨はしとしとと降り続いている。
止む気配は無い。
どうしようか、と言う言葉を紡ぐ代わりに、
ちろりと隣人に視線を送った。
すると。

ぱくぱくぱく。

言葉は発することなく、隣人の唇だけが話すように動いた。
それは比較的緩やかな動きだったけれど、
突然の事で読み取ることが出来ない。
それを察してか、
隣人はもう一度、言葉を発することなく唇だけを動かす。
さっきよりももっと、緩やかな速度で。

ぱく、ぱく、ぱく。

一文字ずつをなんとか読み取って、
頭の中で一つの文章に繋ぎ合わせる。
そうしてようやく、隣人の言った言葉を理解する。

『たまにはいいんじゃないか?』

なんともシンプルな回答である。
しかしながら、随分と悠長なことを言うものだ。
自分たちにはこの後まだ仕事がある。
遅刻の理由が雨宿りをしていたから、だなんて。
一社会人としてはなんとも頂けない話だ。

…けれども今の気分としては、
それも存外に悪くないような気がして。

ぱくぱくぱく。

隣人を真似して、言葉は発することなく唇だけを動かした。
彼はそれをすぐに読み取ることが出来たらしい。
くしゃりとした笑いを見せて、今度は声を出して笑った。



『悪くないかもね』



たまには、こんなのも。

隣に在る体温に穏やかな時間を感じた、
ある10月の雨の日。


******************************


2006年の日記小話収納。
当時は博さん視点で書いてたと思うけど、今読み返すと前半がリーダー視点で後半が博さん視点のような気がする。(笑)

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