The Angel Cradle.
飛び立つこともままならない。 座り込むことすら許されない。 僕らはいつも、不安定な足場の上に。
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湿気と蒸し暑さで充満したオフィスの空気に嫌気がさして、自主休憩を決め込み飛び出したビルの外。
空模様は生憎の様相を呈していて、肺から吐き出した淀んだ空気は、重く地面へと転がった。
この時期はどうしても気分が暗く沈みがちだ。
中途半端な気温と、じめじめとした湿気と、それを生み出す雨、雨、雨。
うまく気分を切り替えられるほどポジティブではない自分は、ワイシャツをわずかに濡らす弱々しい雨の粒ですらなんとも忌々しく思えて小さく舌打ちした。
今し方出てきたばかりだが、仕方がない、戻るか。
そう思って踵を返そうとした時、それは聞こえてきたのだ。
「 」
最初はかすかに。
次第にはっきりと耳に届いたそれは、思うに誰かの歌声で。
オフィス街の雑踏の中において、どうしてかクリアに聞こえるそれに戸惑いを隠せないでいると、唐突に目の前でポンと傘の花が咲いた。
当然驚き、一歩引いたその前には、一人の男の姿。
「こんにちは」
柔らかい声がそう言った。
が、あまりに突然の出来ごとすぎて上手く言葉を返せない。
まるで魚のように口をパクパクさせれば、目の前の男はくすりと笑った。
「そんなに梅雨が嫌い?」
内心を見透かしたかのような言葉に、少しだけ茶色がかった瞳が優しく細められる。
やはり言葉を返せないでいる自分に、男はさしていた傘をすっと差し出すと言った。
「あげる」
「え?」
やっと出た声がそれとはなんとも情けないような気がする。
そしてつい条件反射的に差し出された傘を受け取ってしまったが、どう考えても受け取るべきではないだろう。
すぐさま返そうとしたが、柔らかい笑顔と意外なほど力強い手にあっけなく押し返されてしまった。
「それなら、いつでも晴れ空だから」
「は・・・?」
ちょんちょん、と傘の内側を指さされて初めて気づいた。
傘の内側に、鮮やかな青空が広がっていることに。
「ね?」
にっこりと笑った男は何が楽しいのか、軽やかな足取りで雨の中を歩きだす。
そしてまた、聞こえてくるのはあの歌声だ。
「あ、おい!」
止めるのも聞かず、男は雑踏の中を跳ねるように遠ざかっていく。
不思議な事に、行き交う人々は誰も彼に気づいていないようだった。
まるで雨の中を踊る様に進んで行く彼に、不意にいつか見た映画のワンシーンが重なる。
「大丈夫、俺は雨が好きだから!」
弾んだ声が聞こえたと思ったら、その姿はもう傘の群れの中に消えてしまっていて。
あっけにとられて立ちつくす、その手に残ったのは青空を模した傘。
「・・・一体、なんだったんだ?」
まるで狐につままれたような気分だ。
けれど、未だ耳に残るあの歌声はどこまでも楽しく、晴れやかで。
知らず緩んでいた口元を誤魔化す様に、その歌声をそっとなぞった。
【Singing In The Rain】
**********
※日記掲載文を収納。
何故か傘の日(6/11)からこんな話が出来ましたって言う。
不思議系?ファンタジー系?
こういう雰囲気の話を書いたのは初めてかもしれんね。
名前出してないけど一応イメージは上二人です、はい。
博さんは多分・・・梅雨の妖精さんと見せかけてカエルの妖精さんなんじゃないかな!(笑)
ちなみに湿気と蒸し暑さで充満したオフィスの空気に嫌気がさしたのは俺です。(え)
社内があっついよー・・・(倒)
空模様は生憎の様相を呈していて、肺から吐き出した淀んだ空気は、重く地面へと転がった。
この時期はどうしても気分が暗く沈みがちだ。
中途半端な気温と、じめじめとした湿気と、それを生み出す雨、雨、雨。
うまく気分を切り替えられるほどポジティブではない自分は、ワイシャツをわずかに濡らす弱々しい雨の粒ですらなんとも忌々しく思えて小さく舌打ちした。
今し方出てきたばかりだが、仕方がない、戻るか。
そう思って踵を返そうとした時、それは聞こえてきたのだ。
「 」
最初はかすかに。
次第にはっきりと耳に届いたそれは、思うに誰かの歌声で。
オフィス街の雑踏の中において、どうしてかクリアに聞こえるそれに戸惑いを隠せないでいると、唐突に目の前でポンと傘の花が咲いた。
当然驚き、一歩引いたその前には、一人の男の姿。
「こんにちは」
柔らかい声がそう言った。
が、あまりに突然の出来ごとすぎて上手く言葉を返せない。
まるで魚のように口をパクパクさせれば、目の前の男はくすりと笑った。
「そんなに梅雨が嫌い?」
内心を見透かしたかのような言葉に、少しだけ茶色がかった瞳が優しく細められる。
やはり言葉を返せないでいる自分に、男はさしていた傘をすっと差し出すと言った。
「あげる」
「え?」
やっと出た声がそれとはなんとも情けないような気がする。
そしてつい条件反射的に差し出された傘を受け取ってしまったが、どう考えても受け取るべきではないだろう。
すぐさま返そうとしたが、柔らかい笑顔と意外なほど力強い手にあっけなく押し返されてしまった。
「それなら、いつでも晴れ空だから」
「は・・・?」
ちょんちょん、と傘の内側を指さされて初めて気づいた。
傘の内側に、鮮やかな青空が広がっていることに。
「ね?」
にっこりと笑った男は何が楽しいのか、軽やかな足取りで雨の中を歩きだす。
そしてまた、聞こえてくるのはあの歌声だ。
「あ、おい!」
止めるのも聞かず、男は雑踏の中を跳ねるように遠ざかっていく。
不思議な事に、行き交う人々は誰も彼に気づいていないようだった。
まるで雨の中を踊る様に進んで行く彼に、不意にいつか見た映画のワンシーンが重なる。
「大丈夫、俺は雨が好きだから!」
弾んだ声が聞こえたと思ったら、その姿はもう傘の群れの中に消えてしまっていて。
あっけにとられて立ちつくす、その手に残ったのは青空を模した傘。
「・・・一体、なんだったんだ?」
まるで狐につままれたような気分だ。
けれど、未だ耳に残るあの歌声はどこまでも楽しく、晴れやかで。
知らず緩んでいた口元を誤魔化す様に、その歌声をそっとなぞった。
【Singing In The Rain】
**********
※日記掲載文を収納。
何故か傘の日(6/11)からこんな話が出来ましたって言う。
不思議系?ファンタジー系?
こういう雰囲気の話を書いたのは初めてかもしれんね。
名前出してないけど一応イメージは上二人です、はい。
博さんは多分・・・梅雨の妖精さんと見せかけてカエルの妖精さんなんじゃないかな!(笑)
ちなみに湿気と蒸し暑さで充満したオフィスの空気に嫌気がさしたのは俺です。(え)
社内があっついよー・・・(倒)
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