The Angel Cradle.
飛び立つこともままならない。 座り込むことすら許されない。 僕らはいつも、不安定な足場の上に。
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挨拶は社会人としての基本である。
そんな言葉を何かの本で読んだ事がある。
その本曰わく、今の世の中挨拶一つまともに出来ない人間が多いのだそうだ。
礼節は厳しく。
それは必ず守らなければいけない事だと思っていたから、俺は今も挨拶には細心の注意を払っている。
何故ならそれはその昔、何が出来なくともせめて挨拶だけは大きな声でしっかりしろと坂本くんに厳しく教え込まれたからだ。
それを何かの話の流れで顔馴染みのプロデューサーに話した所、『そりゃ坂本くんの教育の賜物だな』なんて笑って言われた。
背中がむずがゆくなった。
だったら俺たちは全員、この人の背中を見て育っているんだろう、多分。
この人に引っ張られて、守られて。
そうやって俺たちはここまで来たのかも知れない。
特に、俺たちカミセンは。
「…岡田?」
「ん?」
「そんな大きな目でじっと見つめられるとまぁくん照れちゃうんだけど?」
…自分でまぁくんとか言うのはどうかと思うけど。
まぁそんな可愛さを37にもなって出していけるのが坂本くんのすごいところであったりもするのかもしれない。
若干気持ち悪いけど。
「まぁくん」
「んぁっ??」
そんな素っ頓狂な声出さないでもいいのに。
まぁでも、まぁくんなんて呼んだのは随分久しぶりではあるから、その驚きは分からなくもない。
「なんだよお前、気持ち悪いな…」
「自分でまぁくんって言う方が気持ち悪いよ」
「ほっとけ」
ちょっと顔を赤くしてるのはご愛嬌…かな?
どうやらそれは自覚しているらしい。
ついふっと吹き出すと、笑うんじゃねぇと怒られた。
「んふふ、坂本くんさ、俺たちに昔良く挨拶はしっかりしろ!!ってすごい言ってたじゃん?」
「ん?あぁ」
「その事をさ、プロデューサーに話したら今の俺があるのは坂本くんの教育の賜物だなって言われた」
「へぇ」
あ、ちょっと嬉しそうな顔した。
「そりゃあもう苦労して教育しましたからねぇ」
なんて、坂本くんは冗談めかして笑う。
けど、実のところそれは本当に大変な苦労だったに違いない。
年齢も個性もバラバラなグループの、リーダーという重責とプレッシャーの中で。
言うことをなかなか聞かない子供相手に悪戦苦闘した日々は、一体どれだけ坂本くんに負担をかけただろう。
あの頃の坂本くんの年齢を追い越して初めて、そんなことを考えられるようになった自分がいる。
それが成長したと言う事なのか、ただ歳をとったからなのかは分からないけれど。
「あの頃は挨拶の一つもまともに出来ないガキだったお前らがもう30になるんだもんなぁ」
時が経つのはあっという間だよな、って。
昔を懐かしむように目を細めた坂本くんの横顔は、温かみのある表情に彩られている。
なんだかくすぐったいような気持ちになってこっそりと苦笑したら、それに気づいたらしい坂本くんがどうした?と首を傾げた。
「…なんか、坂本くんって、ほんっとお父さんのポジションなんだなぁって思って」
「あぁ?」
「いいと思うよ、すごく。だって俺たちはちゃんと、父親の背中を見て育ってるからさ」
「はい?」
なんだそりゃ、って坂本くんは、困ったような、呆れたような顔になる。
でも冗談でもなんでもなく、俺は本当にそう思ってたりする。
普段態度には出さなくたって、本当はすごく、頼りにしてる。
自覚がなくたって、なんだって。
間違いなく、坂本くんは俺たちのリーダーだからさ。
だから。
「長生きしてな、まぁくん」
「・・・はいぃ???」
いつまでも、俺たちのお手本でいてよ。
これから先も。
ずっと、ずっと。
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