The Angel Cradle.
飛び立つこともままならない。 座り込むことすら許されない。 僕らはいつも、不安定な足場の上に。
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星のない夜。
漆黒に沈んだ世界の中で。
一際妖しく輝くオレンジ色の満月を背負った男は、徐に両腕を持ち上げると、そのまま横へと広げてみせた。
燃え盛る炎のように赤い瞳を、キラキラと輝かせながら。
「なぁ、余所見してんじゃねえよ」
挑発するような声音に、ぞくりと粟立つ肌。
その強すぎる存在感に気圧され、思わず後退った【私】の背を受け止めたのは、
まるで細い月のような目をした、緑の瞳の男だった。
「おっと、悪いけど逃がしてやれないんだよねぇ。ごめんな?」
まるで道化師のようにおどけて笑う男は得体が知れず、【私】は声も出せずにただはくはくと唇を動かすしかない。
あぁ、これは悪夢なのだろうか。
何故か定まらない意識の中、そう思って小さく震えた。
「ねぇ、そんなに怖がらないで。大丈夫だから。ほら」
不意に注がれた、柔らかなその声と共に握られた右手。
見ればそれは紫の瞳をした男の、とても優しく温かい手だった。
無意識にそれをぎゅうと握り返せば、くすくすと笑われる。
羞恥に頬を染める【私】を、男はただ微笑みのままに見つめていた。
「そう、俺たちはただ、君の傍に在るだけだから」
その言葉と共に、今度は左手を誰かに握られる。
闇にまぎれ、音も無く現れたのは、黄色の瞳を持つ男だった。
彼は端正な顔に微かな笑みを浮かべて、【私】の手をそっと引く。
そのエスコートに促されるまま、【私】はゆっくりと前へ進んだ。
未だ心に戸惑いを浮かべながら。
「忘れないでね。いつだって、俺たちは君の事を考えてるんだから」
そこには浮かぶ満月に似た、橙色の瞳をした男がいた。
いや、その明るい光はむしろ、太陽のそれに近いだろう。
少年の様なあどけない笑顔を真っ直ぐに向けてくる彼は、まるで子供を宥めるかのように【私】の頭を撫でると、とん、と【私】の背中を押した。
よろけて踏み出した数歩先。
そこにいたのは、【私】に向けて手を差し出す、長身の男で。
「さぁ、おいで。何処までも一緒に行こう」
そう囁く蠱惑的な甘い声に、目が眩みそうになった。
誘われるがままその手を取り、向けられた言葉に自然と頷いてしまった自分に驚く。
そんな【私】の内心を見透かしたかのように、男が吐息だけで笑う。
思わず彼の顔を見れば。
目の前にいたその男の瞳は、よく晴れた空のような、鮮やかな青をしていた。
あぁ、あと一色あれば虹色になるのに、と。
不意にそんなことを思った【私】の中で、何かがこう囁いてもいた。
彼らは不完全であるからこそ意味があるのだ。
そうであるからこそ。
ただひたすらに終わらないこの夢を、紡ぎ続けて行けるのだからと。
『何処までも続く夢を見せてあげよう』
六人の男の声が重なり合い、世界にゆっくりと染み込んでいく。
彼らはこの先一体、【私】にどんな夢を魅せてくれるのだろうか。
気づけば不思議と甘く高鳴りだした胸に。
月明かりの中、並ぶ六人の背中を見つめて。
嗚呼、こんな幸福があるものだろうかと。
満たされていく心に、緩む視界がじわりと滲んだ。
☆☆☆☆☆☆
パイナッポーを見て、今現在の色気溢れるV6さんをちゃんとした文章で書きたい!と勢いのまま書き殴ったら、なんかよく分からない感じに着地しましたっていう。(笑)
ナイトメアシックスの誘い。
本人的には色々含みを持たせたつもりなんですが・・・なんですが・・・(お察しください)
漆黒に沈んだ世界の中で。
一際妖しく輝くオレンジ色の満月を背負った男は、徐に両腕を持ち上げると、そのまま横へと広げてみせた。
燃え盛る炎のように赤い瞳を、キラキラと輝かせながら。
「なぁ、余所見してんじゃねえよ」
挑発するような声音に、ぞくりと粟立つ肌。
その強すぎる存在感に気圧され、思わず後退った【私】の背を受け止めたのは、
まるで細い月のような目をした、緑の瞳の男だった。
「おっと、悪いけど逃がしてやれないんだよねぇ。ごめんな?」
まるで道化師のようにおどけて笑う男は得体が知れず、【私】は声も出せずにただはくはくと唇を動かすしかない。
あぁ、これは悪夢なのだろうか。
何故か定まらない意識の中、そう思って小さく震えた。
「ねぇ、そんなに怖がらないで。大丈夫だから。ほら」
不意に注がれた、柔らかなその声と共に握られた右手。
見ればそれは紫の瞳をした男の、とても優しく温かい手だった。
無意識にそれをぎゅうと握り返せば、くすくすと笑われる。
羞恥に頬を染める【私】を、男はただ微笑みのままに見つめていた。
「そう、俺たちはただ、君の傍に在るだけだから」
その言葉と共に、今度は左手を誰かに握られる。
闇にまぎれ、音も無く現れたのは、黄色の瞳を持つ男だった。
彼は端正な顔に微かな笑みを浮かべて、【私】の手をそっと引く。
そのエスコートに促されるまま、【私】はゆっくりと前へ進んだ。
未だ心に戸惑いを浮かべながら。
「忘れないでね。いつだって、俺たちは君の事を考えてるんだから」
そこには浮かぶ満月に似た、橙色の瞳をした男がいた。
いや、その明るい光はむしろ、太陽のそれに近いだろう。
少年の様なあどけない笑顔を真っ直ぐに向けてくる彼は、まるで子供を宥めるかのように【私】の頭を撫でると、とん、と【私】の背中を押した。
よろけて踏み出した数歩先。
そこにいたのは、【私】に向けて手を差し出す、長身の男で。
「さぁ、おいで。何処までも一緒に行こう」
そう囁く蠱惑的な甘い声に、目が眩みそうになった。
誘われるがままその手を取り、向けられた言葉に自然と頷いてしまった自分に驚く。
そんな【私】の内心を見透かしたかのように、男が吐息だけで笑う。
思わず彼の顔を見れば。
目の前にいたその男の瞳は、よく晴れた空のような、鮮やかな青をしていた。
あぁ、あと一色あれば虹色になるのに、と。
不意にそんなことを思った【私】の中で、何かがこう囁いてもいた。
彼らは不完全であるからこそ意味があるのだ。
そうであるからこそ。
ただひたすらに終わらないこの夢を、紡ぎ続けて行けるのだからと。
『何処までも続く夢を見せてあげよう』
六人の男の声が重なり合い、世界にゆっくりと染み込んでいく。
彼らはこの先一体、【私】にどんな夢を魅せてくれるのだろうか。
気づけば不思議と甘く高鳴りだした胸に。
月明かりの中、並ぶ六人の背中を見つめて。
嗚呼、こんな幸福があるものだろうかと。
満たされていく心に、緩む視界がじわりと滲んだ。
☆☆☆☆☆☆
パイナッポーを見て、今現在の色気溢れるV6さんをちゃんとした文章で書きたい!と勢いのまま書き殴ったら、なんかよく分からない感じに着地しましたっていう。(笑)
ナイトメアシックスの誘い。
本人的には色々含みを持たせたつもりなんですが・・・なんですが・・・(お察しください)
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『あぁ、もうそろそろかなぁ』
木の葉のざわめきと共に密やかに伝えられた言葉に、家主は「そうか」とだけ呟いて、静かに盃を傾けた。
それは大きな月が江戸の夜空を彩った、ある晩秋の折。
屋敷の裏庭に面する縁側で、桜の木相手に晩酌をしていた家主――昌行は、桜の木――博の名残惜しげな言葉にもうそんな時節かと独りごちた。
博とは、昌行の前に鎮座する、樹齢千年を越えた江戸彼岸桜の大木の事である。
長い年月を生きてきたこの桜は、いつの頃からか己の意思と言うものを持ち、言葉を覚え、こうして人と話をすることが出来るようになっていた。
しかしこの桜が出来るのはそれだけではない。
桜の精気が最も高まる季節、つまりは春を迎えると、この桜は人に姿を映し、自由に行動する事まで出来るようになるのである。
その春の間、昌行の屋敷は盆暮れ正月がいっぺんにやって来たかのような賑わいを見せる。
何故ならば、博に便乗してやってくる来客が在るからだ。
最初はそれを鬱陶しく思っていた昌行だがしかし、今ではあの騒がしさが屋敷を満たさない日は寂しさすら感じると言うのだから、慣れというのは恐ろしいものである。
『今年の冬は長そうだって、健が言ってたから、次にみんなに会えるのは随分先になりそうだね』
「それでも、この江戸に巡らない季節はないからな。嫌でもまた会えるさ」
博の寂しげな言葉を受けて、つい昌行は柄にもない事を口にしていた。
似合わない事を、と笑われるかと思ったが、予想に反して博は何も言わなかった。
感傷的な気分に浸ってでもいるのだろうか。
見上げた桜はただ流れてくる風にその葉を揺らしているだけだ。
「博?」
『・・・なに?』
「急に黙るなよ。まだ眠るには早いぞ?」
『ごめん。寝てたわけじゃないよ。ちょっと、色々考えちゃってさ』
考えても仕方のない事だけど、と言い置いた博は囁くように言葉を零す。
『昌行と、こうしていられる時間はあとどれくらいあるんだろう、とか』
「・・・・・・」
人と桜とでは生きていく時間が途方もなく異なる。
ましてや博は大きな力を宿した特異な存在である。
いわゆる【あやかし】と呼ばれるものである快彦たちならばまだしも、人間である昌行にはその一生を最後まで共に歩く事は出来ないだろう。
その感傷と言うよりは漠然とした不安と言うべきものは、博と出会った時から密かに昌行の中にもあったものだ。
どんなに頑張っても、足掻いても。
自分は必ず博よりも先に逝ってしまうだろう。
その残酷な理に、例外はない。
『・・・ごめん、変な話して』
「まぁ人間ってのはちっぽけなもんだからな」
お前ほど図太くは生きられやしないさ、とニヤリ笑いで言った昌行に、返って来たのは不満げな声だ。
『ちょっと、それは酷くない?俺は真面目に・・・』
「考えても先のない事だって、お前自分で言ったろうよ」
だったらそんなもん考えるのは止めちまえ、と昌行は明朗に言い放った。
それは彼がこれまで自身に幾度となく言い聞かせて来た言葉でもある。
どうするのか、どうなるのかなんて、どうせ誰にも分かりはしない。
だったらそんなものは今際の際にでも考えりゃあいい事だろうさ、と昌行は笑う。
「まぁどうしてもお前が寂しいってんなら、化けて出る方法でもあいつらに聞いておくか」
幸い・・・かどうかはいざ知らずではあるが、そう言う話に詳しそうな奴らは身近にやたらと沢山いる。
それゆえ、中にはそんな方法を知っている奴もいるかもしれない。
そんな冗談半分の昌行の提案に、微妙な声色で答えたのは博だった。
『昌行が幽霊になるの?なんか、それは嬉しくないなぁ・・・』
顔をしかめているのが見て取れそうな声に、昌行はつい吹き出して大きく笑う。
確かに、幽霊嫌いな自分が幽霊になって化けて出ると言うのは本人としても微妙な所ではある。
下手をしたら幽霊になった己に驚き、あまりの恐怖に震え上がりさえしそうだ。
・・・いや、何もそこまで自分を卑下しないでもとは思うが、あながち無いとも言えないのが昌行の残念な所である。
「はは、化けて出るのは無しか」
『無しだよ。俺は今のままの昌行がいいよ』
ゆるりと笑う昌行に、困惑しきった声で博は否定を口にする。
それに頷いて返した昌行は、幾分穏やかな声でそれを紡いだ。
「だったら、俺も。今のままのお前を望むよ」
『え?』
昌行は空になっていた杯に銚子から酒を注ぐと、それを舐めるように呑んで緩く笑う。
「この世には輪廻転生ってもんがあるんだそうだ。人間の死は終わりじゃあなくて、次に生まれるための始まりなんだとさ」
『始まり・・・』
杯を置き、昌行は桜を見上げる。
秋の終わりを迎えた今、そこに花はないけれど。
大きな満月の下でさわさわと揺れる、紅葉を過ぎ枯れ葉だけを身につけた桜は、次に来る春を待つ、生命力を確かに宿している。
「だから俺が天寿を全うしたら、お前はただのんびりと待っててくれりゃあいいさ」
ふっと息を吐き、殊更丁寧に紡ぐ言葉は。
「廻り来る春に、新しく生まれる俺を」
不意に吹いた風に、ふわりと宙を舞ったひとひらの葉が、昌行が広げた手のひらの上に落ちた。
それはやがて土へと還り、また新しい命となる。
永久(とこしえ)に巡る命だ。
『・・・・・・』
「博?」
答えを返してはくれないのか、と。
緩く首をかしげた昌行のもとに、降って来たのはため息交じりの声だった。
『・・・まるで舞台役者みたいな言い回しするから、どう反応して良いのか分からなかったんだよ』
「・・・お前、せっかく人がいいこと言ったってのに」
『くさい台詞の間違いじゃない?』
くすくすと笑う博に、昌行はゆるいため息をこぼしながら微笑した。
置いていた杯を再度持ち上げて、そっと唇を添える。
「・・・まぁ正直、桜と心中するってのも悪くないと思ったんだけどな」
『え?なに?何か言った?』
杯の中にこぼした密やかな独白は、どうやら博の元までは届かなかったらしい。
「いや」
それでいい。
いや、そのほうがいい。
そんな愚かな執着は、この美しく生命力に溢れた花には似合わない。
「何も言ってやしないさ」
『そう?』
「あぁ」
穏やかにそう応える昌行に、納得したのか博はそれ以上何も聞きはしなかった。
*
「なぁ博」
『なに?』
「お前、次の春が来たら何がしたい?」
『え?うーん、そうだなぁ・・・やっぱり、一番に昌行の美味しいご飯が食べたいかな!』
「・・・・・・お前は欲が無いねぇ」
名残を惜しむ秋が過ぎると、やがて独り待つ静かな冬が訪れる。
その季節を昌行がやり過ごせるのは、その先に待つ賑やかな春を知っているからだ。
花が咲き、屋敷には賑やかな声が戻り、やがてその喧しさに辟易する。
あの、煩わしくも愛しい日々が。
『だからさ、昌行。ちゃんと御馳走作って待っててね』
不意にふわりと吹いた風に、何故か季節外れの春の香りを感じた。
その風に導かれ、昌行の持つ杯にひらりと飛来したのは。
今時分に咲いているはずの無い、淡い春色の桜の花びらで。
『廻り来る春に、目を覚ます俺を』
それは先の昌行の言葉をなぞり、同じく殊更丁寧に紡がれた。
「・・・あぁ」
昌行は緩やかに目を細めると、密かに口角を上げ、杯の酒を花びらごと飲み干した。
それは晩秋の折、毎年のように繰り返される、彼と花の儀式のようなものだ。
永久に巡る季節の中の、ほんの一瞬を共に過ごす彼らの。
次の春を迎えるための、ほんの些細な約束なのだ。
*
そして、また季節は巡り。
当たり前のような顔をして、次の春はやってくる。
「おはよう、昌行!」
「あぁ、大飯食らいが起きやがったか」
憎まれ口を叩きながらも、上がる口角は隠しきれず。
触れた手のぬくもりに安堵を覚えながら。
またこの季節を共に過ごすのだ。
いつの日か来る終わりを憂い、迎える始まりに期待しながら。
了
「けーんちゃん♪今日もカワイイねぇー♪」
「・・・まぁ俺が可愛いのは当然として。岡田さぁ、最近のお前のそのキャラなんなの?」
楽屋の奥から聞こえてきた、可愛いのは当然なのかよ、と言う剛の言葉はとりあえず無視する方向で。
にこにこと言うよりはニヤニヤの方が合っているような気がする笑顔を浮かべた岡田に対し、俺は眉根をきゅっと寄せた。
なんだか良く分からないけど、最近のコイツは俺を愛でるのがブームらしく。
仕事中でもそれ以外でも、事ある毎にこうして俺を褒めて来る。
まぁ俺が可愛いのは自他共に認めるところだけれども。
同じメンバーの、しかも年下の岡田にこうもしょっちゅう言われると若干気持ち悪くなって来るわけで。
気付けば随分と間近に接近して来ていた岡田の顔の、その特徴的なデコをべしりと叩いてみたら、いでっ!と言う声が上がった。
「ちょっと、健くん。なんで叩くの」
「え?そこにデコがあったから?」
「そんな理由で叩かないでよ・・・」
叩かれたデコをさすりながら、ちょっぴり涙目になっている岡田はいつもの残念なV6の末っ子ちゃんだ。
そんなに強く叩いたつもりはなかったんだけど、結構いい音したもんな、今の。
ごめんごめん、とデコを撫でさすってやれば、涙をひっこめた岡田がにっこりと笑った。
「やっさしーなー健ちゃんはー♪」
「もーなんだよやめろよー」
「困ってる顔も可愛いーねー♪」
またまた楽屋の奥から剛の、ほんと岡田気持ち悪ぃな、と言う声とうひゃうひゃ笑いが聞こえてくる。
そりゃあ俺だってアイドルですから?
可愛いと言われるのはやぶさかではないんですけどもね。
ただやっぱり岡田に言われるのはちょっとなんか、なんと言うか・・・変なむず痒さがあるような気がして、なんとも言えない心持ちだ。
「お前さぁ、今年はその方向で行くつもりなの?」
「うん。ダメかな?」
「いや、そんなこと聞かれても・・・」
「あ、もちろん健くんのことは本当に可愛いと思ってるよ?」
「もーそれはいいってば」
真っ直ぐできらっきらした目で言われても、どんなリアクションを返すのが正解なのかさっぱり分からないんですけど・・・
そんな風にひたすら困惑するばかりの俺を見かねたのか、岡田はちょっと声のトーンを落として緩く首を傾げた。
「健くん、こういうのって嬉しくない?」
「え?」
「まぁ俺に可愛いって言われても嬉しくないか」
「えぇ?いや、それは・・・」
「嬉しいから困ってんじゃねーの?」
「えっ?」
いつの間にかこっちに近づいて来ていた剛が、全てお見通しだと言わんばかりの顔でそんなことを言った。
・・・なんだよ。
それじゃあ俺がすごい痛いヤツみたいじゃんか。
嬉しいなんて、そんなこと・・・
「健くん?」
・・・岡田が珍しく眉尻を下げて、困ったような顔なんかするから。
そうだ、そんな顔なんかするから。
剛のにやけ面はなるべく視界に入れないようにして。
俺は精一杯の仏頂面を作ってから、ぼそりとそれを口にした。
「・・・・・・うれしくなくはない」
・・・そう。
なんとも残念ながら。
ひっじょーに悔しいことに。
ワタクシ、嬉しくなくはないのです。
でもそれを認めてしまうのはちょっと恥ずかしすぎやしないかい?
一人そう内心で葛藤する俺の心を知ってか知らずか、
素直じゃねぇなぁと剛がうひゃうひゃ笑う。
ふぐぐ、と忸怩たる思いで臍を噛む俺に対し、当の岡田の反応と言えば。
「・・・そっかぁ」
あまりにもほにゃっとした、昔のリンゴほっぺちゃんを思い出すような、妙にカワイイ笑顔を浮かべたりなんかするもんだから。
なんだか今までの色々がどうでも良くなってきて、俺もつい、笑ってしまった。
「・・・ぷふふっ。お前さ、俺のこと可愛いって言うけど、俺からしてみればお前も充分カワイイの部類に入るんだからな?」
「え?俺が?」
俺のどこが可愛いの?ときょとんとした顔をする岡田は、外向きに作られたものじゃない、無防備な表情で。
俺はコイツのこういう顔が一番好きだなぁと思ったりするわけなのである。
そしてそれは多分、俺だけではないはずなわけで。
「なぁ、剛。岡田ってカワイイよな?」
「あーまぁ可愛いんじゃね?」
「えぇ?剛くんまで何?」
含み笑いの俺が投げ掛けた言葉に、剛はニヤリと笑ってそう返してくる。
思いがけず剛にまで可愛い認定をされてしまった岡田は、耳を赤くしてあわあわと狼狽えた。
どうだ、これでちょっとは俺の気持ちが分かっただろ?
「ほぉーんと岡田はカワイイよなー岡田は岡田だもんなーうりうりー」
「ぬぉ、ちょっと、健くん!」
「うひゃひゃひゃ」
俺はわしゃわしゃーっとムツゴロウさんばりに岡田の頭を撫でまくる。
慌てる岡田と、それを見て笑う剛。
うんうん、この感じこそ俺達だな。
そんな風に納得して、その満足感からついニコニコの笑顔を浮かべたら。
「・・・やっぱり健くんが一番可愛いと思うよ」
と、真顔の岡田に言われてしまったので。
俺はもう全てを受け入れる覚悟をして。
「ありがとよっ!」
と応え、にかっと笑ってやった。
「・・・まぁ俺が可愛いのは当然として。岡田さぁ、最近のお前のそのキャラなんなの?」
楽屋の奥から聞こえてきた、可愛いのは当然なのかよ、と言う剛の言葉はとりあえず無視する方向で。
にこにこと言うよりはニヤニヤの方が合っているような気がする笑顔を浮かべた岡田に対し、俺は眉根をきゅっと寄せた。
なんだか良く分からないけど、最近のコイツは俺を愛でるのがブームらしく。
仕事中でもそれ以外でも、事ある毎にこうして俺を褒めて来る。
まぁ俺が可愛いのは自他共に認めるところだけれども。
同じメンバーの、しかも年下の岡田にこうもしょっちゅう言われると若干気持ち悪くなって来るわけで。
気付けば随分と間近に接近して来ていた岡田の顔の、その特徴的なデコをべしりと叩いてみたら、いでっ!と言う声が上がった。
「ちょっと、健くん。なんで叩くの」
「え?そこにデコがあったから?」
「そんな理由で叩かないでよ・・・」
叩かれたデコをさすりながら、ちょっぴり涙目になっている岡田はいつもの残念なV6の末っ子ちゃんだ。
そんなに強く叩いたつもりはなかったんだけど、結構いい音したもんな、今の。
ごめんごめん、とデコを撫でさすってやれば、涙をひっこめた岡田がにっこりと笑った。
「やっさしーなー健ちゃんはー♪」
「もーなんだよやめろよー」
「困ってる顔も可愛いーねー♪」
またまた楽屋の奥から剛の、ほんと岡田気持ち悪ぃな、と言う声とうひゃうひゃ笑いが聞こえてくる。
そりゃあ俺だってアイドルですから?
可愛いと言われるのはやぶさかではないんですけどもね。
ただやっぱり岡田に言われるのはちょっとなんか、なんと言うか・・・変なむず痒さがあるような気がして、なんとも言えない心持ちだ。
「お前さぁ、今年はその方向で行くつもりなの?」
「うん。ダメかな?」
「いや、そんなこと聞かれても・・・」
「あ、もちろん健くんのことは本当に可愛いと思ってるよ?」
「もーそれはいいってば」
真っ直ぐできらっきらした目で言われても、どんなリアクションを返すのが正解なのかさっぱり分からないんですけど・・・
そんな風にひたすら困惑するばかりの俺を見かねたのか、岡田はちょっと声のトーンを落として緩く首を傾げた。
「健くん、こういうのって嬉しくない?」
「え?」
「まぁ俺に可愛いって言われても嬉しくないか」
「えぇ?いや、それは・・・」
「嬉しいから困ってんじゃねーの?」
「えっ?」
いつの間にかこっちに近づいて来ていた剛が、全てお見通しだと言わんばかりの顔でそんなことを言った。
・・・なんだよ。
それじゃあ俺がすごい痛いヤツみたいじゃんか。
嬉しいなんて、そんなこと・・・
「健くん?」
・・・岡田が珍しく眉尻を下げて、困ったような顔なんかするから。
そうだ、そんな顔なんかするから。
剛のにやけ面はなるべく視界に入れないようにして。
俺は精一杯の仏頂面を作ってから、ぼそりとそれを口にした。
「・・・・・・うれしくなくはない」
・・・そう。
なんとも残念ながら。
ひっじょーに悔しいことに。
ワタクシ、嬉しくなくはないのです。
でもそれを認めてしまうのはちょっと恥ずかしすぎやしないかい?
一人そう内心で葛藤する俺の心を知ってか知らずか、
素直じゃねぇなぁと剛がうひゃうひゃ笑う。
ふぐぐ、と忸怩たる思いで臍を噛む俺に対し、当の岡田の反応と言えば。
「・・・そっかぁ」
あまりにもほにゃっとした、昔のリンゴほっぺちゃんを思い出すような、妙にカワイイ笑顔を浮かべたりなんかするもんだから。
なんだか今までの色々がどうでも良くなってきて、俺もつい、笑ってしまった。
「・・・ぷふふっ。お前さ、俺のこと可愛いって言うけど、俺からしてみればお前も充分カワイイの部類に入るんだからな?」
「え?俺が?」
俺のどこが可愛いの?ときょとんとした顔をする岡田は、外向きに作られたものじゃない、無防備な表情で。
俺はコイツのこういう顔が一番好きだなぁと思ったりするわけなのである。
そしてそれは多分、俺だけではないはずなわけで。
「なぁ、剛。岡田ってカワイイよな?」
「あーまぁ可愛いんじゃね?」
「えぇ?剛くんまで何?」
含み笑いの俺が投げ掛けた言葉に、剛はニヤリと笑ってそう返してくる。
思いがけず剛にまで可愛い認定をされてしまった岡田は、耳を赤くしてあわあわと狼狽えた。
どうだ、これでちょっとは俺の気持ちが分かっただろ?
「ほぉーんと岡田はカワイイよなー岡田は岡田だもんなーうりうりー」
「ぬぉ、ちょっと、健くん!」
「うひゃひゃひゃ」
俺はわしゃわしゃーっとムツゴロウさんばりに岡田の頭を撫でまくる。
慌てる岡田と、それを見て笑う剛。
うんうん、この感じこそ俺達だな。
そんな風に納得して、その満足感からついニコニコの笑顔を浮かべたら。
「・・・やっぱり健くんが一番可愛いと思うよ」
と、真顔の岡田に言われてしまったので。
俺はもう全てを受け入れる覚悟をして。
「ありがとよっ!」
と応え、にかっと笑ってやった。