The Angel Cradle.
飛び立つこともままならない。 座り込むことすら許されない。 僕らはいつも、不安定な足場の上に。
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・とある秋の日の楽屋風景。
「○○料亭で秋の味覚懐石。△△軒でラーメン三杯(醤油・塩・とんこつ)にチャーハンと餃子。焼き肉はタン塩が美味いあの店と、カルビが美味いあっちの店と、あとホルモン系のあそこの店を三軒はしご…あーあと鍋も行ったんだっけ。ちゃんこ鍋とキムチ鍋の店があそことあそこ…っと」
・一人ぶつぶつと言いながら手帳に何かを書いていく長野。
「よし、これで全部かな」
「長野く~ん何書いてんの?」
「井ノ原」
・手帳を覗き込んだ井ノ原の問いに長野はにっこり笑顔で。
「まぁ食べ歩き日記みたいなものかな。昨日食べたものをメモしてるんだよ」
「へーそんじゃこれ昨日1日で食べた分なわけ?相変わらずよく食うよなぁ~あんた」
・見てるだけで胸焼けしそう、と苦笑する井ノ原に対し長野は。
「あぁ、違う違う」
「へ?」
・ぱたぱたと手を振って、長野は至極当然だとばかりの笑顔で。
「これは昨日の夕食分だけだよ。朝と昼はまた別」
「うえっ?!(汗)」
「ほら、朝と昼はこっちの手帳」
・そう言って長野が差し出したもう一つの手帳にも文字がびっしりと書いてある。
「うっ!!じゃ、じゃあマジでさっきの量が一食分…?(汗)」
「もちろん♪(満面の笑み)」
・その会話を聞いていたチームカミセンは楽屋の隅でひそひそと。
「夕飯だけでなんでそんなに食えんだよ…」
「人間ブラックホールだ…」
「食べたもんは一体どこ行ったんや…」
・そんなカミセンをよそに、長野はやはり満面の笑みで。
「秋は美味しいものが多いからつい食べ過ぎちゃうんだよねぇ~♪」
「そ・・・そっかぁ・・・」
・ラーメンや焼き肉は季節関係ないじゃんとは口が裂けても言えない井ノ原であった。
「天高く、長野肥ゆる秋か・・・」
「坂本くん?(笑顔)」
「・・・なんでもないです」
************************************
ボツにしていたものをサルベージしてみた。(笑)
実際はここまでの無茶はしない・・・よ、ね・・・?(震え声)
日記のサバ元でなにやらエラー(新規書き込みが出来ない)が出ているので今日の日記はこちらにコピペしときますー
**********
そう言えば。
気づけば六月も後半戦に入っているわけで。
ちゅーことはそろそろ三宅さんのバースデー準備をしなければならないわけで。
・・・しかしながらほんとにネタがないわけで。(笑)
さてどーしようかと唸っている光騎@管理人でっす、おっす!
たまにはリーダーと連動絵にしたいんだけどなー題材が思い浮かばないんだよなー
どんなんしたら面白いかしらん。むむー
今週中には案出しとかないと絶対間に合わないよね・・・おおう・・・(笑)
ちゅーわけでそろそろ考え始めまーっす!
頑張るぜー!
さって、そんじゃ今日は(も)短めにこれにて失礼しまするよ。
皆様また明日お会いしましょうぞ。
んではでは、シャララー☆(今日は黄瀬くん/黒バスの誕生日だそうなので・笑)
**********
そう言えば。
気づけば六月も後半戦に入っているわけで。
ちゅーことはそろそろ三宅さんのバースデー準備をしなければならないわけで。
・・・しかしながらほんとにネタがないわけで。(笑)
さてどーしようかと唸っている光騎@管理人でっす、おっす!
たまにはリーダーと連動絵にしたいんだけどなー題材が思い浮かばないんだよなー
どんなんしたら面白いかしらん。むむー
今週中には案出しとかないと絶対間に合わないよね・・・おおう・・・(笑)
ちゅーわけでそろそろ考え始めまーっす!
頑張るぜー!
さって、そんじゃ今日は(も)短めにこれにて失礼しまするよ。
皆様また明日お会いしましょうぞ。
んではでは、シャララー☆(今日は黄瀬くん/黒バスの誕生日だそうなので・笑)
「そう言えば、井上くんって何者なんですか?」
コーヒーブレイクで室内にまったりとした空気が流れ始めた頃、ふと思い出したようにそう口にしたのは矢沢だった。
よくよく考えてみると、井上は加納以外には「浅輪の友達」だとしか紹介されておらず、そうすると何故ただの友達がこの部屋でコーヒーを一緒に飲んでいるんだと言う話になるわけで。
そう言えばそうだと室内にいた全員の視線を受けることになった井上は慌てて立ち上がると自己紹介をし直した。
「あっ!すみません、自己紹介遅れました。改めまして、警視庁警備部警護課第4係機動警護班隊員の井上薫巡査部長です」
「ながっ!肩書ながっ!!」
「えーと、警護課ってことはつまりSPってことかな?」
「あ、はい。そうです」
青柳の茶々を受け流した矢沢がそうまとめてくれた言葉に井上はこくこくと頷く。
「言われてみれば、確かにがたいがいいもんなぁ」
「小柄だけど、スーツの上着パンパンよね」
つついてもいい?と目を輝かせて言っている小宮山の隣で村瀬はあきれ顔だ。
「すっごいんですよ、薫くんは。SPなのにバンバン犯人逮捕しちゃったりなんかして、超有能なんです!」
何故か自分のことのように嬉しそうにそう報告する浅輪に井上はただただ苦笑するしかない。
本来、SPの職務と言うものは体を張って警護対象を守ることであって、犯人を逮捕する事ではない。
つまり言うなれば井上はSPとしては異分子的存在であり、実際それを上層部に良く思われていない節があった。
なのでこうも素直に称賛の声をかけられると井上としては戸惑うより他ないわけで。
ぽりぽりと頭をかく井上の横で、ソファに座ったままの加納がエスプレッソをすすりながら、へぇ、と気の抜けた声を漏らした。
やはり上司と言う立場にいる加納には、自分のような存在は奇異に映るのだろうか。
そう思って恐る恐る加納を見下ろした井上を、見上げていたのは意外にも、好奇心に充ち満ちた目で。
「すごいね、君」
「・・・え?あ、いや、そんな・・・」
「でっしょー!係長もそう思いますよね!!なのに薫くんは謙虚なんですよねー」
予想外の反応に、返す言葉を探せないでいる井上の背中をばしんと叩いて、浅輪がもうちょっと強気に行ってもいいんじゃね?などと笑って言ってくるもので、井上は益々どんな顔をしていいのか分からなくなってしまう。
「SPが犯人逮捕って・・・それって前代未聞ですよね」
「確かに。聞いたこと無いわよね。ほんとスゴイのね、君」
「ほぉーそんな気概があるなら是非うちの班に欲しいねぇ。誰かさんの代わりに」
「・・・青柳さん、どうしてこっちを見て言ってるんですか?」
「え?なんの話カ・ナ☆」
矢沢の言葉にこくこく頷く小宮山だったり。
早くも第二ラウンドに突入しそうな勢いの村瀬と青柳だったりと。
称賛されこそすれ、非難する言葉は一つも出てこない事に、なんとも言えず気恥しくなり、井上はうっすらと耳を赤くする。
そんな彼を見上げる加納の瞳は温かく、穏やかな優しさに満ちていた。
**********
すっかり年一回の更新が定着してしまっているこもれびのばしょ。ですけれども。
とりあえず2013年も無事更新ができましたよ。(笑)
テレビでSPやってるの見てたら続き書きたくなったんだぜ。
しかしこんな長いスパンで連載することになるとは思いもしなかったわ。
ちなみに今回の分で文章のストックが完全になくなったので、来年ちゃんと更新できるかどうかは不明です、はい。(をい)
コーヒーブレイクで室内にまったりとした空気が流れ始めた頃、ふと思い出したようにそう口にしたのは矢沢だった。
よくよく考えてみると、井上は加納以外には「浅輪の友達」だとしか紹介されておらず、そうすると何故ただの友達がこの部屋でコーヒーを一緒に飲んでいるんだと言う話になるわけで。
そう言えばそうだと室内にいた全員の視線を受けることになった井上は慌てて立ち上がると自己紹介をし直した。
「あっ!すみません、自己紹介遅れました。改めまして、警視庁警備部警護課第4係機動警護班隊員の井上薫巡査部長です」
「ながっ!肩書ながっ!!」
「えーと、警護課ってことはつまりSPってことかな?」
「あ、はい。そうです」
青柳の茶々を受け流した矢沢がそうまとめてくれた言葉に井上はこくこくと頷く。
「言われてみれば、確かにがたいがいいもんなぁ」
「小柄だけど、スーツの上着パンパンよね」
つついてもいい?と目を輝かせて言っている小宮山の隣で村瀬はあきれ顔だ。
「すっごいんですよ、薫くんは。SPなのにバンバン犯人逮捕しちゃったりなんかして、超有能なんです!」
何故か自分のことのように嬉しそうにそう報告する浅輪に井上はただただ苦笑するしかない。
本来、SPの職務と言うものは体を張って警護対象を守ることであって、犯人を逮捕する事ではない。
つまり言うなれば井上はSPとしては異分子的存在であり、実際それを上層部に良く思われていない節があった。
なのでこうも素直に称賛の声をかけられると井上としては戸惑うより他ないわけで。
ぽりぽりと頭をかく井上の横で、ソファに座ったままの加納がエスプレッソをすすりながら、へぇ、と気の抜けた声を漏らした。
やはり上司と言う立場にいる加納には、自分のような存在は奇異に映るのだろうか。
そう思って恐る恐る加納を見下ろした井上を、見上げていたのは意外にも、好奇心に充ち満ちた目で。
「すごいね、君」
「・・・え?あ、いや、そんな・・・」
「でっしょー!係長もそう思いますよね!!なのに薫くんは謙虚なんですよねー」
予想外の反応に、返す言葉を探せないでいる井上の背中をばしんと叩いて、浅輪がもうちょっと強気に行ってもいいんじゃね?などと笑って言ってくるもので、井上は益々どんな顔をしていいのか分からなくなってしまう。
「SPが犯人逮捕って・・・それって前代未聞ですよね」
「確かに。聞いたこと無いわよね。ほんとスゴイのね、君」
「ほぉーそんな気概があるなら是非うちの班に欲しいねぇ。誰かさんの代わりに」
「・・・青柳さん、どうしてこっちを見て言ってるんですか?」
「え?なんの話カ・ナ☆」
矢沢の言葉にこくこく頷く小宮山だったり。
早くも第二ラウンドに突入しそうな勢いの村瀬と青柳だったりと。
称賛されこそすれ、非難する言葉は一つも出てこない事に、なんとも言えず気恥しくなり、井上はうっすらと耳を赤くする。
そんな彼を見上げる加納の瞳は温かく、穏やかな優しさに満ちていた。
**********
すっかり年一回の更新が定着してしまっているこもれびのばしょ。ですけれども。
とりあえず2013年も無事更新ができましたよ。(笑)
テレビでSPやってるの見てたら続き書きたくなったんだぜ。
しかしこんな長いスパンで連載することになるとは思いもしなかったわ。
ちなみに今回の分で文章のストックが完全になくなったので、来年ちゃんと更新できるかどうかは不明です、はい。(をい)
事件の合間の小休止。
山ほど溜まっていた書類仕事をなんとか片付け、休憩に出た外階段で。
見上げた午後六時の空は、未だ夕闇には染まらず。
明るい光をたたえたままのそれを見上げて、坂本は夏が間近に来ている事を知った。
「さっきまでの大雨が嘘みたいだな」
外階段の簡素な鉄製の手すりにもたれ、坂本は見事なまでの青を見上げてそうつぶやいた。
五月に入ってからと言うもの、東京は異常気象と呼ぶべき不安定な天候が続いていて。
それは本日も例外ではなく、昼過ぎから降り出した雨はやがて雷を伴った豪雨となって、つい先刻まで激しく窓ガラスを叩いていた。
と、思えば夕方を迎える頃にはそれはぴたりと止んで、後に残ったのはこの清々しいまでの青空である。
まるで台風が通り過ぎた後のようなそれを見て、正に春の嵐だなと坂本は独りごちた。
「ずいぶん気温が下がったな」
豪雨が空気を洗ったからなのか、外気は春とは思えないほどキンと冷たく引き締まっていた。
日の長さは夏の到来を予見していると言うのに、空気はまるで冬に逆戻りしたかのようでさえある。
坂本は時折吹く冷たい風に体を震わせ、薄いワイシャツの袖をこすりながら、上着を羽織ってこなかった事を少々後悔した。
大人しく部屋に戻るか。
上着を持ってまた外に出るか。
それともこのままここで過ごすか。
さて、どうしようか。
束の間逡巡したところでその声は聞こえた。
「ハンチョウ!」
聞き慣れた呼び声に視線を下へと向けてみれば、視界に映ったのは鮮やかなブルー。
外階段の下にあるのは交機隊と共有の駐車場である。
つまり確認するまでもなく、その声の主はアイツでしかないわけで。
ゆえに坂本はその声に答えることなく、ただ階段を上ってくる軽快な靴音に静かに耳を澄ませていた。
「こんな所でサボリ?ハンチョウ殿」
カンッ、と鉄板を踏む最後の靴音が響いた後。
青空よりも真っ青な制服に身を包み、開口一番軽口を叩いた相手は、ごく自然に坂本の隣に並んだ。
言うまでもなく、ベイエリア分署の花形、交機隊の小隊長、長野博その人である。
「暴走族との追いかけっこの帰りか?」
「失礼な。立派に仕事を終えて凱旋して来たところだよ。この嵐の中ね」
「その割には制服が濡れてないみたいだな」
「車の中でお留守番してろって部下が煩くてさ」
そう言った長野の顔には珍しく苦笑が浮かんでいる。
長野の部下、交機隊の隊員はよく訓練された精鋭揃いで、一番の特徴は小隊長である長野をヘッドと呼び、とにかく心の底から敬愛している所にある。
そんな彼らの事だ。
この春嵐の中、ヘッドの手を煩わせることがあってはならないと長野を車の中に縫い止めたのだろう。
まったく、本当に良く出来た部下たちである。
「随分綺麗に晴れたね」
「そうだな」
見渡す限りの青を見上げて長野が言った言葉に坂本は頷く。
と、ひゅうと吹いた風についぶるりと身を震わせたら、それを目ざとく見つけた長野に笑われた。
「その薄着でこの気温はつらいんじゃない?」
「上着を取りに戻るかどうか考えてた所なんだ」
「そう言えばここで何してたわけ?」
「山のような書類がやっと片付いたからな、休憩だ」
それは誇張表現でもなんでもなく、正に見たままを表した言葉だ。
坂本のデスクの上にはその言葉通り、堆い書類の山が出来ていたのだ。
あまり知られてはいないようだが、事件が起こる度に様々な手続きを踏まなければならない刑事は書類仕事がとにかく多い。
幸い今日は大きな事件が起こらなかったので、坂本は書類を片付けることだけに専念出来たのだが、しかし。
昼前から始めたその作業が、全て片付いた頃には世間は既に夕方を迎えていた。
半日ずっとデスクに張り付いていたせいで坂本の体はすっかり凝り固まっていて。
事件捜査によるそれとは異なる疲労感を持て余した彼は、気分転換も兼ね、外階段へと足を向けて現在に至るわけである。
「そう言えばお前こそ、戻らなくていいのか?」
「俺にも休憩する権利はあると思うけど?」
「留守番しかしてないんじゃなかったのか?」
「一日中車の中で待機って結構疲れるんだよ?」
おかげで俺も体がギシギシだよ、と言いながら長野は大きく伸びをした。
確かに、一日中車中に缶詰めと言うのは疲労を感じるものだ。
特に長野は穏やかな風貌に反して、相当にアクティブな人間である。
何もせずに車中で大人しくお留守番と言うのは彼にとって大変に窮屈なものであったに違いない。
部下の気づかいは言ってしまえばありがた迷惑だったわけだ。
とは言え長野はそれを口にするような無粋な人間でもないので、仕事中は変わらぬ飄々とした態度を保っていたのだろう。
上司思いの部下の上司は部下思いと言うわけだ。
「それにしても、今日の天気は本当にすごかったね」
「あぁ。正に春の嵐だったな」
「で、それが通り過ぎたらこの青空」
「しかも空気は冬に近い」
「地球はどうなってるんだかなぁ」
「さぁな」
ここ最近頻発している異常気象は実は東京だけの話ではない。
日本は全国的に春の嵐に振り回されているのだ。
短時間に集中的に降る豪雨や雷、それに竜巻。
それらが残して行った被害は相当なもので、現場で災害対応に駆り出されている警察官は少なくない。
刑事である坂本がそれに駆り出される事はまずないが、雨が降ろうが槍が降ろうが事件が起きれば現場に駆けつけ、犯人が逃走すれば豪雨の中でも追いかけなければならないのが刑事と言うものである。
ゆえに坂本らにとっても、この春の嵐は迷惑以外の何ものでもなかった。
「今日は大きな事件が起こらなくて良かったね」
「あぁ。この歳で嵐の中を駆けずり回りたくはないからな」
「でも本当はデスクワークよりそっちの方がマシだと思ってるんじゃない?」
「どうしてそう思うんだ?」
「どうしてそう思わないと思うの?」
投げかけた問いに対して逆に笑顔で問い返されて、坂本は答えに窮してしまった。
確かに山ほど積まれた書類と格闘するより、雨が降ろうが槍が降ろうが、犯人を追いかけている方が自分は性に合っていると坂本は思っていた。
それは刑事の本能であり、また宿命でもある。
「・・・お前は本当に嫌なヤツだな」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
何度繰り返したか分からないそんなやり取りを、懲りずにまた繰り返す。
しかし何度繰り返したところで優位に立っているのはいつも長野の方だ。
坂本はいつだって、この男に勝てない。
思うに、多分、これからも。
「あぁ、やっと日が落ちてきた」
長野のその言葉に西の空を見てみれば、確かに日が傾いて行くのが見て取れた。
夕映えは美しく、ゆっくりと世界を染め上げて行く。
「こんなに空気が冷えてるのに、夏が近いなんて嘘みたいだなぁ」
「暦の上ではもう初夏だからな」
「春の嵐が過ぎれば、次は夏の熱波か」
そう、この季節が過ぎればすぐに、地獄のような熱気に包まれる日々が始まるのだ。
炎天下の中、汗にまみれて犯人を追いかけ、駆けずり回る日々が。
「でも結局、どの季節にいたって、俺たちが追いかけるものは変わらないんだよね、ハンチョウ?」
「・・・逃げ水か」
「ふふ」
意味ありげに笑う長野に、いつだったかに交わした会話を思い出して坂本は頷く。
そう。
結局のところ、どんな季節にいようが自分たちが追いかけるものは何一つ変わらないのだ。
何故ならば、坂本も長野も、何時まで経ってもまっしぐらに逃げ水を追いかける、熱い季節にいるのだから。
「今年の夏も暑いのかな」
「・・・熱いんだろう、きっと」
機嫌良く口元を緩めた坂本に、長野も同じく相好を崩して。
過ぎゆく春を名残惜しく見送りながら、二人はもう言葉を発する事なく、夕闇に沈み行く世界をただ眺め続けていた。
**********
昨年、作中と同じ天候にあった時期に書き始めたはいいけれど、途中で飽きて放置していたものを何故か季節外れの今完成させて出す謎。(笑)
久しぶりに安積班シリーズを読み返していたら妙に書きたくなった結果ですはい。
原作を知ってると分かるネタを含んでるんで、未読の方、意味不明だったらすんまそん。
長野ヘッドは速水ヘッドより部下にべたべたに甘やかされてるっぽい設定がもれなく追加されました。(笑)
山ほど溜まっていた書類仕事をなんとか片付け、休憩に出た外階段で。
見上げた午後六時の空は、未だ夕闇には染まらず。
明るい光をたたえたままのそれを見上げて、坂本は夏が間近に来ている事を知った。
「さっきまでの大雨が嘘みたいだな」
外階段の簡素な鉄製の手すりにもたれ、坂本は見事なまでの青を見上げてそうつぶやいた。
五月に入ってからと言うもの、東京は異常気象と呼ぶべき不安定な天候が続いていて。
それは本日も例外ではなく、昼過ぎから降り出した雨はやがて雷を伴った豪雨となって、つい先刻まで激しく窓ガラスを叩いていた。
と、思えば夕方を迎える頃にはそれはぴたりと止んで、後に残ったのはこの清々しいまでの青空である。
まるで台風が通り過ぎた後のようなそれを見て、正に春の嵐だなと坂本は独りごちた。
「ずいぶん気温が下がったな」
豪雨が空気を洗ったからなのか、外気は春とは思えないほどキンと冷たく引き締まっていた。
日の長さは夏の到来を予見していると言うのに、空気はまるで冬に逆戻りしたかのようでさえある。
坂本は時折吹く冷たい風に体を震わせ、薄いワイシャツの袖をこすりながら、上着を羽織ってこなかった事を少々後悔した。
大人しく部屋に戻るか。
上着を持ってまた外に出るか。
それともこのままここで過ごすか。
さて、どうしようか。
束の間逡巡したところでその声は聞こえた。
「ハンチョウ!」
聞き慣れた呼び声に視線を下へと向けてみれば、視界に映ったのは鮮やかなブルー。
外階段の下にあるのは交機隊と共有の駐車場である。
つまり確認するまでもなく、その声の主はアイツでしかないわけで。
ゆえに坂本はその声に答えることなく、ただ階段を上ってくる軽快な靴音に静かに耳を澄ませていた。
「こんな所でサボリ?ハンチョウ殿」
カンッ、と鉄板を踏む最後の靴音が響いた後。
青空よりも真っ青な制服に身を包み、開口一番軽口を叩いた相手は、ごく自然に坂本の隣に並んだ。
言うまでもなく、ベイエリア分署の花形、交機隊の小隊長、長野博その人である。
「暴走族との追いかけっこの帰りか?」
「失礼な。立派に仕事を終えて凱旋して来たところだよ。この嵐の中ね」
「その割には制服が濡れてないみたいだな」
「車の中でお留守番してろって部下が煩くてさ」
そう言った長野の顔には珍しく苦笑が浮かんでいる。
長野の部下、交機隊の隊員はよく訓練された精鋭揃いで、一番の特徴は小隊長である長野をヘッドと呼び、とにかく心の底から敬愛している所にある。
そんな彼らの事だ。
この春嵐の中、ヘッドの手を煩わせることがあってはならないと長野を車の中に縫い止めたのだろう。
まったく、本当に良く出来た部下たちである。
「随分綺麗に晴れたね」
「そうだな」
見渡す限りの青を見上げて長野が言った言葉に坂本は頷く。
と、ひゅうと吹いた風についぶるりと身を震わせたら、それを目ざとく見つけた長野に笑われた。
「その薄着でこの気温はつらいんじゃない?」
「上着を取りに戻るかどうか考えてた所なんだ」
「そう言えばここで何してたわけ?」
「山のような書類がやっと片付いたからな、休憩だ」
それは誇張表現でもなんでもなく、正に見たままを表した言葉だ。
坂本のデスクの上にはその言葉通り、堆い書類の山が出来ていたのだ。
あまり知られてはいないようだが、事件が起こる度に様々な手続きを踏まなければならない刑事は書類仕事がとにかく多い。
幸い今日は大きな事件が起こらなかったので、坂本は書類を片付けることだけに専念出来たのだが、しかし。
昼前から始めたその作業が、全て片付いた頃には世間は既に夕方を迎えていた。
半日ずっとデスクに張り付いていたせいで坂本の体はすっかり凝り固まっていて。
事件捜査によるそれとは異なる疲労感を持て余した彼は、気分転換も兼ね、外階段へと足を向けて現在に至るわけである。
「そう言えばお前こそ、戻らなくていいのか?」
「俺にも休憩する権利はあると思うけど?」
「留守番しかしてないんじゃなかったのか?」
「一日中車の中で待機って結構疲れるんだよ?」
おかげで俺も体がギシギシだよ、と言いながら長野は大きく伸びをした。
確かに、一日中車中に缶詰めと言うのは疲労を感じるものだ。
特に長野は穏やかな風貌に反して、相当にアクティブな人間である。
何もせずに車中で大人しくお留守番と言うのは彼にとって大変に窮屈なものであったに違いない。
部下の気づかいは言ってしまえばありがた迷惑だったわけだ。
とは言え長野はそれを口にするような無粋な人間でもないので、仕事中は変わらぬ飄々とした態度を保っていたのだろう。
上司思いの部下の上司は部下思いと言うわけだ。
「それにしても、今日の天気は本当にすごかったね」
「あぁ。正に春の嵐だったな」
「で、それが通り過ぎたらこの青空」
「しかも空気は冬に近い」
「地球はどうなってるんだかなぁ」
「さぁな」
ここ最近頻発している異常気象は実は東京だけの話ではない。
日本は全国的に春の嵐に振り回されているのだ。
短時間に集中的に降る豪雨や雷、それに竜巻。
それらが残して行った被害は相当なもので、現場で災害対応に駆り出されている警察官は少なくない。
刑事である坂本がそれに駆り出される事はまずないが、雨が降ろうが槍が降ろうが事件が起きれば現場に駆けつけ、犯人が逃走すれば豪雨の中でも追いかけなければならないのが刑事と言うものである。
ゆえに坂本らにとっても、この春の嵐は迷惑以外の何ものでもなかった。
「今日は大きな事件が起こらなくて良かったね」
「あぁ。この歳で嵐の中を駆けずり回りたくはないからな」
「でも本当はデスクワークよりそっちの方がマシだと思ってるんじゃない?」
「どうしてそう思うんだ?」
「どうしてそう思わないと思うの?」
投げかけた問いに対して逆に笑顔で問い返されて、坂本は答えに窮してしまった。
確かに山ほど積まれた書類と格闘するより、雨が降ろうが槍が降ろうが、犯人を追いかけている方が自分は性に合っていると坂本は思っていた。
それは刑事の本能であり、また宿命でもある。
「・・・お前は本当に嫌なヤツだな」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
何度繰り返したか分からないそんなやり取りを、懲りずにまた繰り返す。
しかし何度繰り返したところで優位に立っているのはいつも長野の方だ。
坂本はいつだって、この男に勝てない。
思うに、多分、これからも。
「あぁ、やっと日が落ちてきた」
長野のその言葉に西の空を見てみれば、確かに日が傾いて行くのが見て取れた。
夕映えは美しく、ゆっくりと世界を染め上げて行く。
「こんなに空気が冷えてるのに、夏が近いなんて嘘みたいだなぁ」
「暦の上ではもう初夏だからな」
「春の嵐が過ぎれば、次は夏の熱波か」
そう、この季節が過ぎればすぐに、地獄のような熱気に包まれる日々が始まるのだ。
炎天下の中、汗にまみれて犯人を追いかけ、駆けずり回る日々が。
「でも結局、どの季節にいたって、俺たちが追いかけるものは変わらないんだよね、ハンチョウ?」
「・・・逃げ水か」
「ふふ」
意味ありげに笑う長野に、いつだったかに交わした会話を思い出して坂本は頷く。
そう。
結局のところ、どんな季節にいようが自分たちが追いかけるものは何一つ変わらないのだ。
何故ならば、坂本も長野も、何時まで経ってもまっしぐらに逃げ水を追いかける、熱い季節にいるのだから。
「今年の夏も暑いのかな」
「・・・熱いんだろう、きっと」
機嫌良く口元を緩めた坂本に、長野も同じく相好を崩して。
過ぎゆく春を名残惜しく見送りながら、二人はもう言葉を発する事なく、夕闇に沈み行く世界をただ眺め続けていた。
**********
昨年、作中と同じ天候にあった時期に書き始めたはいいけれど、途中で飽きて放置していたものを何故か季節外れの今完成させて出す謎。(笑)
久しぶりに安積班シリーズを読み返していたら妙に書きたくなった結果ですはい。
原作を知ってると分かるネタを含んでるんで、未読の方、意味不明だったらすんまそん。
長野ヘッドは速水ヘッドより部下にべたべたに甘やかされてるっぽい設定がもれなく追加されました。(笑)
「はーい薫くんお待たせ~♪ごめんなー随分待たせちゃって」
「あ、いや、大丈夫っす」
村瀬と青柳の間に矢沢が文字通りはさまって、なんとかかんとか事態を収拾した後。
ようやっと浅輪が淹れたてのコーヒーとエスプレッソを運んできてくれた。
彼が動く度、9係の部屋にふわっと広がるのは、なんとも香ばしいコーヒーの香りだ。
「はい、薫くんはエスプレッソ。で、係長は普通のコーヒーでっす。どーぞ」
「ありがとうございます」
「ありがと」
二人にそれぞれカップを渡した浅輪は、小宮山たちにも手慣れた様子でコーヒーを運んで行く。
9係には事務員が配置されていないようなので、こういう雑用は一番年下である浅輪の仕事のようだ。
ふと自身の課の強烈な印象を与える事務員が脳裏に浮かんで、なんとなく苦笑いしたくなった井上である。
「そうそう、エスプレッソは砂糖を入れて飲むのが本場流なんだけど、薫くんどうする?」
「あ、このまま頂きます」
「そう?」
コーヒーはブラック派である井上は、浅輪の申し出を断り、デミタスカップではなく、普通の白いマグカップに少量注がれたエスプレッソを眺めた。
そう言えば本格的なエスプレッソを飲むのはこれが初めてのことだ。
苦味が強いと言うイメージから黒々とした液体が注がれているのを想像したが、実際カップの中に浮かんでいたのは焦げ茶色のきめ細かい泡である。
ちなみにそれは浅輪曰く、クレマと言うらしい。
「時間がたつと酸味が強くなるから早めにどうぞ」
「あ、はい」
じゃあ頂きます、ともう一度言い置いてから井上はカップを口に運んだ。
井上はそうグルメなわけでもないし、特別コーヒーに詳しいわけでもない。
ゆえに味について事細かに感想を述べる事は出来ないが、浅輪の淹れてくれたエスプレッソは彼が最初に言った通り、確かに美味しかった。
まずコーヒーの濃い香りが来て、次に苦味、そして酸味とコクを舌で感じる。
量が少ない為、三口であっという間に飲み終わった井上がカップをテーブルに置くと、浅輪に感想を伝える前にそれを問いかけてきた人物がいた。
「おいしい?」
…やはり、言うまでもなく。
そう聞いてきたのは隣の加納で、彼は微笑を浮かべてこちらを見ている。
もしかして、飲んでいる間中ずっと見つめられていたのだろうか。
だとしたらなんとも恥ずかしすぎる。
思わず少々頬を赤らめつつ、素直に「はい」と答えれば。
加納は何故か、満足そうな笑顔を浮かべて「そう」とだけ言った。
**********
そう言えば今年はまだ出してなかったな、と言う事でなんとか描き上げて出してみた。
やったよ!やっと井上くんがエスプレッソ淹れてもらえたよ!!(笑)
しかしながらそもそも書いてる本人がエスプレッソを飲んだ事が無いので詳しい描写は出来なかったと言うオチ。(をい)
ちなみに砂糖を入れないで飲むのは本場では邪道らしい。
「あ、いや、大丈夫っす」
村瀬と青柳の間に矢沢が文字通りはさまって、なんとかかんとか事態を収拾した後。
ようやっと浅輪が淹れたてのコーヒーとエスプレッソを運んできてくれた。
彼が動く度、9係の部屋にふわっと広がるのは、なんとも香ばしいコーヒーの香りだ。
「はい、薫くんはエスプレッソ。で、係長は普通のコーヒーでっす。どーぞ」
「ありがとうございます」
「ありがと」
二人にそれぞれカップを渡した浅輪は、小宮山たちにも手慣れた様子でコーヒーを運んで行く。
9係には事務員が配置されていないようなので、こういう雑用は一番年下である浅輪の仕事のようだ。
ふと自身の課の強烈な印象を与える事務員が脳裏に浮かんで、なんとなく苦笑いしたくなった井上である。
「そうそう、エスプレッソは砂糖を入れて飲むのが本場流なんだけど、薫くんどうする?」
「あ、このまま頂きます」
「そう?」
コーヒーはブラック派である井上は、浅輪の申し出を断り、デミタスカップではなく、普通の白いマグカップに少量注がれたエスプレッソを眺めた。
そう言えば本格的なエスプレッソを飲むのはこれが初めてのことだ。
苦味が強いと言うイメージから黒々とした液体が注がれているのを想像したが、実際カップの中に浮かんでいたのは焦げ茶色のきめ細かい泡である。
ちなみにそれは浅輪曰く、クレマと言うらしい。
「時間がたつと酸味が強くなるから早めにどうぞ」
「あ、はい」
じゃあ頂きます、ともう一度言い置いてから井上はカップを口に運んだ。
井上はそうグルメなわけでもないし、特別コーヒーに詳しいわけでもない。
ゆえに味について事細かに感想を述べる事は出来ないが、浅輪の淹れてくれたエスプレッソは彼が最初に言った通り、確かに美味しかった。
まずコーヒーの濃い香りが来て、次に苦味、そして酸味とコクを舌で感じる。
量が少ない為、三口であっという間に飲み終わった井上がカップをテーブルに置くと、浅輪に感想を伝える前にそれを問いかけてきた人物がいた。
「おいしい?」
…やはり、言うまでもなく。
そう聞いてきたのは隣の加納で、彼は微笑を浮かべてこちらを見ている。
もしかして、飲んでいる間中ずっと見つめられていたのだろうか。
だとしたらなんとも恥ずかしすぎる。
思わず少々頬を赤らめつつ、素直に「はい」と答えれば。
加納は何故か、満足そうな笑顔を浮かべて「そう」とだけ言った。
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そう言えば今年はまだ出してなかったな、と言う事でなんとか描き上げて出してみた。
やったよ!やっと井上くんがエスプレッソ淹れてもらえたよ!!(笑)
しかしながらそもそも書いてる本人がエスプレッソを飲んだ事が無いので詳しい描写は出来なかったと言うオチ。(をい)
ちなみに砂糖を入れないで飲むのは本場では邪道らしい。